見出し画像

小泉悠 「現代ロシアの軍事戦略」 (本のご紹介)

小泉悠 「現代ロシアの軍事戦略」 (ちくま新書 2021年)

 ロシアによるウクライナ侵略について、過去に話題にしました。様々な意見が乱れ飛ぶ中、自分がまっとうな立場でい続けられるよう、最低限のことは知っておきたい。そんな動機で手に取った本です。

***

 米国対旧ソ連の東西冷戦が、旧ソ連崩壊により終焉したにもかかわらず、地域紛争は止まず(むしろ増加)、戦争の火種が絶えない中、可視化できる軍事力では西側陣営に大きく見劣りするロシアは、どのような軍事戦略をとっているのだろうか。

 ロシアの主観的認識では、NATOの拡大はロシアに対する大きな脅威であり、地域紛争も背後にそれを操る外国の存在を想定する。そもそも旧ソ連の崩壊自体が、西側陣営による有形(軍事)無形(情報戦)の攻撃によるものだからである。ロシアは“永続戦争”下にある国家であり、全ての紛争が最終的には西側との大規模戦争に発展しうると見なされるのだ。

 非軍事的闘争と組み合わせたハイブリッド戦争が注目されるとはいえ、今でも軍事力行使は大きな役割を持つ。それは、関係者間の駆け引きから地域紛争への介入、戦争初期段階での損害限定から、エスカレーション防止まで、さまざまな場面で利活用されるものである。エスカレーション防止に、戦術核兵器の使用が位置付けられている可能性は否定できない(注・戦術核の使用は、むしろエスカレーション”防止”と位置付けられていることに留意する必要あり)。

***

 本書でもさらっと触れられていましたが、ロシアの“被害妄想”的世界観は、旧ソ連時代からの共産主義的認識論から脈々と引き継がれた、ロシア政界の“DNA”のようなものでしょう。現在のロシア大統領の施政方針は、決して突飛なものではない(いわんや”狂っている”わけでは決してない)ことが理解されます。

 現時点で直接の脅威はない(と言ってよい)ものの、ロシアにとって日本は、西側陣営の一部であることに違いはありません。日本の対応も、平時の情報戦から有事の防衛力まで、ハイブリッドに考えなければならないでしょう。勉強になりました。著者のスタンスもバランス感覚に優れ、好感が持てました。

(おわり)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?