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【シリーズ・摂食障害20】摂食障害の成り立ち(その2・きっかけと悪循環)

【シリーズ・摂食障害20】摂食障害の成り立ち(その2・きっかけと悪循環)
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

 摂食障害の理解と対応についての連載記事の、20回目になります。過去記事は、マガジンからご覧いただけます。

 AED(全米摂食障害アカデミー)が発表した「摂食障害の9つの真実」を一つひとつ検討しています。摂食障害とはどんな病気か、どのように成立しどのように維持されるのか、について解説しています。前回の記事と引き続きご覧ください。

7.発症のきっかけは「過度のストレス」または「痩せてしまうこと」


 前回の記事では、発症の背景についてご説明しました。そして、発症のきっかけとなるのは、「過度のストレス」や、実際に「痩せてしまうこと」と考えられています。

 「過度のストレス」は、自律神経を介した器官調節に影響を与え、内臓の働きや食欲を変化させます。食べても「吐き戻して」しまったり「お腹を下してしまったり」するだけでなく、「食べ物がのどを通らない」とか「気晴らし食いをしてしまう」というような、摂食や食行動が変わってしまう場合もあるでしょう。

 実際に「痩せてしまうこと」も、発症のきっかけになります。ダイエットと摂食障害発症との関連は、いくつかの調査研究で明らかにされています。英国の女子中学生では、ダイエット経験者はそうでない者と比べ、1年後に8倍発症率が高かったこと、豪州の14-15歳女性の調査では、ダイエット経験者はそうでない者と比べ、3年間に5ないし18倍発症率が高かったこと(永田、山下、山田ら 2018より引用)が報告されています。

 実際に痩せると、しばしばそのことが称賛され、痩せていくことが善であると心理的に条件づけられ(後には、体重増加が恐怖であると条件づけられもする)、やせの悪循環が始まり強化されてしまうことになります。

8.摂食障害は「悪循環」の病気


 摂食障害の症状は、さまざまな面で悪循環を形成していることがみてとれます。

 過度のダイエットをやり遂げることは、不可能と言ってよいほど困難で、ほとんどが「リバウンド」という状態を経験します。「リバウンド」すると、体重増加の恐怖からますます過度のダイエットを課すようになったり、排出行為などにより体重コントロールを図るようになり、食行動の異常が定着してしまいます。

 過度の体重制限は、脱抑制(我慢しきれず、反動を起こしてしまうこと)を引き起こし、それが過食の原因にもなります。

 リバウンドにせよ過食にせよ、ダイエットを完遂できなかったことが、さらなる不安や恐怖を引き起こし、もともとの心理的脆弱性(完璧主義で不安になりやすいなど)とあいまって、ますます摂食障害の症状を強めてしまうのです。

 生理的にも、生体システムの恒常性(環境の変化に対応しつつ、いまのあり様を保とうと調節すること)から、低栄養が続くとその状況に身体が適応してしまいます。食事をとると体調不良を感じたり、実際に再栄養によって生理的バランスを崩す(リフィーディング(再栄養)症候群については、後に詳しくご説明します)ことすらあるのです。

8.では、どうしたらいいのか


 摂食障害の成り立ちを理解していただいた上で、ではどうしたらいいのでしょうか。

 簡単にいえば、「悪循環を断つこと」すなわち、まず体重増加を図ることが大切です。その上で、病気の背景となっている様々な要因を、一つひとつ解決していくことになります。悪循環が深まる前に、早く対処することが大切ですし、予防の観点からは「適正体重でのダイエットを控える」ことも重要になるでしょう。

 理屈をいうのは簡単ですが、当事者の方からは、このことにお一人で取り組むことは困難を極めるものと思います。医療をはじめ、専門家や支援者とともに行うことが勧められます。

引用文献
永田利彦、山下達久、山田恒ら 2018 無視されてきたダイエットと痩せすぎの危険性-痩せすぎモデル禁止法に向けて- 精神神経学雑誌120(9) pp.741-751.

(おわり)

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