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【シリーズ・摂食障害12】摂食障害が健康上の「危機」である、とは

【シリーズ・摂食障害11】摂食障害が健康上の「危機」である、とは
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

※長く勤めていた精神科病院を退職し、“街の心理士”へと華麗なる転身?を果たした「りらの中のひと」が、心理学やメンタルヘルス、日々の出来事などについて感じることを綴っています。

 摂食障害の理解と対応についての連載記事の、12回目になります。過去記事は、マガジンからご覧いただけます。

 「摂食障害9つの真実」に沿って、摂食障害の概要をお話ししています。今回は、「9つの真実」の3項目め、「摂食障害という病気は、個人や家族の機能に悪影響を及ぼす、健康上の危機を意味する。(An eating disorder diagnosis is a healthy crisis that disrupts personal and family functioning.)」について、少し詳しく解説します。

1.「個人や家族の機能に悪影響を及ぼす」とは


 健康とは、身体的にも精神的にも、社会的にも完全に良好な状態(WHO憲章前文)と定義されますが、摂食障害の症状は、健康のあらゆる側面に影響を与えることは、いうまでもありません。「悪影響」の中身については、まだ充分に説明しきれておりませんが、おいおい触れていくことになります。

 摂食障害が家族の機能にも悪影響を与える、ということも、前回までの記事で指定した通りです。「家族の機能」については、さまざまな見解があり、その全てを詳説することはできません。これまでの私の記事では、摂食障害の症状が、親子の境界を踏み越えて「子が親を振り回し」たり、逆に「親が子に巻き込まれて過干渉に」なったりすることに触れました。

2.健康上の「危機」について


 「9つの真実」のこの項目では、「危機」について、解説しておく必要があると思われます。

 私たちが日常語で「危機」というとき、“最悪の出来事”というニュアンスが含まれているように思います。ところが、保健医療や公衆衛生の分野で「危機」という言葉は、最悪の出来事の“一歩手前”を意味します。ちなみに、保健医療や公衆衛生で“最悪の出来事”は「破綻」と表現します。

 先日、トルコ・シリアで大地震があり、多くの方々が亡くなりました。そのこと自体がとても悲惨な出来事なのですが、病院などの医療システムが崩壊し、上下水道などのライフラインが途絶した状況では、衛生環境が悪化し、重篤な伝染病(コレラなど)が蔓延し、さらに多くの人々が亡くなる事態が起こりえます(実際、大地震の後に感染症の蔓延に見舞われる例としては、2010年ハイチ大地震などが挙げられます)。それがまさに「破綻」なのであり、そうなることを回避するべく、災害医療チームが活動したり、清潔な飲み水や衛生用品の供給を図ったりするわけです。この“破綻を予防する”緊急の対策を「危機介入」といいます。危機の段階で適切に介入できれば、最悪の事態(破綻)は回避できるのです。

 摂食障害は、健康にとって重大な「危機」ではありますが、「破綻」ではありません。できるだけ速やかに適切に対処・介入することが大切ですし、その結果、「破綻」を回避する(=回復する)ことは可能なのです。「9つの真実」の最後の項目で、この点は改めて明言されています。

(つづく)

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