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就労支援における当事者の情報共有(前編)

就労支援における当事者の情報共有(前編)
(「精神障がい当事者の就労支援あれこれ」シリーズ#24)

 精神障がい当事者への就労支援の「魅力と課題」を記していくシリーズです。

今回は、「精神障がい当事者の就労支援における情報共有」についてです。

 はじめに
 私は、精神障がい当事者の就労支援に係る行政(どこかは伏せますが、とある都道府県)のモデル事業2事業の外部委員(受託先が組織した会議体の委員)をさせていただいておりました。このたび、事業年度がいったん終了するにあたり、これまでの取り組みの成果を、受託先機関の方にご了承いただいた上で、私自身の言葉で総括したいと考え、記事にさせていただきます。
 このモデル事業は、精神障がい当事者の就労支援に関する、複数の課題を扱っています。モデル事業に関わる記事には、「はじめに」(この文章)を添付しています。
記事の内容は、私のオリジナルというわけではなく、事業に携わる関係者との議論を基にしております。一方で、記事の内容に関する責任の所在は私にあることを申し添えます。

1.精神障がい当事者の就労支援は「移行モデル」

 精神障がい当事者の就労支援には、多くの専門職や支援機関が関わります。障害者総合支援法下の就労系福祉サービスをはじめ、障害者雇用促進法下の専門機関(障害者就業・生活支援センターや地域障害者職業センターなど)、ハローワークや、医療機関も関与します。

 関係者が多ければ多いほど、役割分担と連携が問題になります。一方で、当事者の側からすれば、様々な関係者や支援機関を相談のために「渡り歩く」ことになるのです。精神障がい当事者にとって、就労への移行の一般的なコースは、「医療でのリハビリ」から「就労移行支援などでの職業訓練・相談」もしくは「ハローワークの障害者窓口での相談」へ、そして「就職後の配慮や支援」の順に」移行していく形になると思います(実際には、それ以外のコースをたどる方も多いのですが)。

2.大切なのは「情報共有」

 就労を目指す当事者の方が、様々な関係者や支援機関と関わりを持ち、支援を移行していく(渡り歩いていく)時に問題となるのが、情報共有の問題です。情報共有の問題は、当事者の側には、「誰に何を伝えたらいいのか分からない」「何度も同じ話をしなければならない」という形で現れます。関係者や支援機関の側からすれば、「関係者との情報共有に手間と時間をかけられない」「支援に必要な情報が得られにくい(積み重なっていかない)」「結果的にその場限りの支援となってしまう」ということになるでしょう。

 情報共有に問題があるとき、その解決策としての唯一最大の手立ては、「情報を個人から切り離し、ツールに埋め込む」ことです。書き込み式の情報共有ツールは、あらゆる現場で、様々な書式のものが工夫されていることと思います。今では、オンラインで情報共有を図るツールもあります(障がいをもつ従業員の雇用管理を支援する情報共有システムSPIS(エスピスと読む)などが代表例)。

3.厚生労働省による「就労パスポート」

 厚生労働省の旗振りで、「就労パスポート」という情報共有ツールが作られています(詳細は厚生労働省の該当ページを参照)。就労パスポートは、障がい(精神障がいに限らない)をもつ人が、職業上の自分の特徴やアピールポイント、希望する配慮などを、支援者と一緒に整理し伝えるための書き込み式情報共有ツールです。書式や「活用の手引き」なども既に公開され、すぐに活用できるようになっています。

 ツールの内容も、コミュニケーションや作業能力についての項目にやや偏っていて、病状や健康の自己管理、日常生活の自己管理の面は弱いものの、概ね職業準備性の考え方に依拠しており、よくできていると思いました(上から目線ですみません)。

 けれども、私たちのモデル事業では、「就労パスポート」とは異なる発想で情報共有支援ツールを作成することを目指し、取り組みました。次回以降に、その詳細をご報告したいと思います。

(つづく)

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