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【シリーズ・摂食障害17】自殺と身体合併症のリスク

【シリーズ・摂食障害17】自殺と身体合併症のリスク
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

 摂食障害の理解と対応についての連載記事の、17回目です。過去記事は、マガジンからご覧いただけます。

 AED(全米摂食障害アカデミー)が発表した「摂食障害の9つの真実」を一つひとつ検討しています。今回は、その6項目め、「摂食障害では、自殺の危険性やさまざまな合併症のリスクが高くなる。(Eating disorders carry an increasing risk for both suicide and medical complications.)」ということについてです。厳しい表現になりますが、摂食障害は「亡くなることのある」病気だ、ということを意味しています。

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1.自殺のリスクについて


 一般人口と比較して、精神疾患を持つ人は、概して自殺のリスクが高いことが知られています。摂食障害でも同様に考えられています(あるメタ解析では、自殺による死亡率は、神経性やせ症では年千人当たり1.24人、神経性過食症では同0.4人と示されています)(参考文献参照)。これは、摂食障害そのものの重症度だけでなく、精神科併存症(うつ病やパーソナリティ障害、アルコール依存症など)の影響も示唆されるものです。

 精神科の併存症については、後々、発達障害やアルコール依存症などについて、改めてご説明するつもりです。

 摂食障害をもつ方の中には、自傷行為を行う方も多いと思われます。自傷行為そのものは自殺を意図するものではないとしても、それを繰り返すうちに自殺既遂へのハードルが下がってしまう(自殺既遂者に、自殺未遂や自損行為での搬送歴のある方が多い事実は、そのように解釈される)場合があります。また、低体重のある方であれば、身体的に健康な方であれば軽傷で済む同じ行為によっても、体の衰弱により重症化し死に至りやすい、と理解することも可能でしょう。

2.身体合併症について


 低体重であることは、そのこと自体が生命のリスクとなります。連載3回目の記事で、BMI24かそれ以上を底に、低体重でも過体重でも、どちらも死亡率は上昇する「U字カーブ」を描く、と紹介しています。

 低体重であり続けることは、さまざまな身体合併症の原因となりえます。筋骨格系(骨粗鬆症など)や生殖器(月経の停止)、中枢神経系(脳の萎縮)だけでなく、全身の様々な臓器に悪影響を与えます。極端な低栄養や排出行為による体内電解質の乱れは、神経伝達を混乱させ、心筋を動かす神経に不調が及べば心停止に至る可能性もあります。

 急性の身体リスクだけでなく、長期にわたる問題を抱えることも考慮しなければなりません。例えば骨量は、十代後半に最大値(peak bone mass)を迎えると、それが閾値となって、後に生活を改め骨量を増やそうにも、増やすことができません。十代の頃に低体重だった方は、生涯にわたり骨量低下による身体リスク(骨折など)を抱えてしまうことになります(高齢での骨折は、寝たきりやフレイル、誤嚥性肺炎…といった致死的な転帰に結びつくことにも留意が必要です)。

 摂食障害における身体への悪影響については、近日中に改めてご説明するつもりでいます。

参考文献
菊地裕絵 2016 摂食障害患者における自殺 心身医学56(8) pp.796-800.

(つづく)

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