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【シリーズ・摂食障害4】「やせすぎ」についてのエキスパートによる警鐘

【シリーズ・摂食障害4】「やせすぎ」についてのエキスパートによる警鐘
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

※長く勤めていた精神科病院を退職し、“街の心理士”へと華麗なる転身?を果たした「りらの中のひと」が、心理学やメンタルヘルス、日々の出来事などについて感じることを綴っています。

 摂食障害の理解と対応についての連載記事の、第4回目です。過去記事は、マガジンからご覧いただけます。

 前回の記事で、若年女性を中心に「やせすぎ」が懸念されていること、「やせすぎ」は肥満と同様、健康へのダメージにつながることを、簡単にご説明しました。

 この現状に対し、最近、摂食障害治療に携わる医師らから、社会的なメッセージが発信され始めているので、ご紹介します。

1.日本精神神経学会有志の声明


 エキスパートたちによる、摂食障害についての社会的メッセージは、2018年に学術雑誌(精神神経学雑誌)に掲載された討論論文(永田、山下、山田ら 2018)に始まるのではないか、と思います。翌年には同雑誌に特集が組まれ(「摂食障害、その人格の病理、社会的背景の影響と治療的意味-痩せすぎモデル禁止法に向けて」)、他学会(日本心身医学会)でも、学術講演会を基にした同趣旨の論文(永田 2019)が掲載されています。

 この一連の投稿は、摂食障害の背景にある“正常体重であるにもかかわらずダイエットを行うことの危険性”と、社会的な“やせ礼賛”、そしてその極端な表れであるファッション業界での“やせすぎモデル”問題に焦点を当てたものでした。摂食障害を患うファッションモデルの死などを契機に、ヨーロッパなどでファッションモデルへの規制が始まる中、日本でも同様の取り組みを求めるものでした。

 “やせすぎモデル”問題の詳細については、機会を改めて触れたいと思います。

2.西園によるpro-ana批判


 摂食障害を、医療(精神科や小児科、心身医療)の中だけでなく、社会的な課題として捉え対策を施す必要性を指摘した点で、上記の取り組みは画期的だと思われます。一方で、若年者により強い影響を及ぼす対象は、ファッションモデルよりもより身近な、すぐ隣のファッションアイコンである可能性があります(というか、そちらの方がはるかに強いのではないでしょうか)。TwitterやInstagram、YouTubeやTikTokなどのSNSを通して、画像や動画、さまざまな情報が交換・共有されるうちに、若年者コミュニティのなかでさまざまなムーブメントがエスカレートしてしまうのです。

 SNSの中でのこのような力動、特にpro-anaの影響に早くから着目し批判的に発信しているのが西園(2013、2017など)です。pro-anaとは、「やせを追究するのは、病気だからではなく、自ら選んだライフスタイルだ」という立場からSNSで進んで情報発信をしている方々を指す言葉です。SNSをよく見ると、#proanaや#thinspiration(pro-anaの類語)とタグ付けられた記事を数多く見かけます。これらの記事は、やせやダイエットに興味をもつ若年者が、煽られてしまいがちな、過激ともいえる内容(やせすぎの体のパーツの画像を載せるなど)となっています。私の記事でも、pro-anaやthinspirationについて、後に改めて取り上げることになると思います。

3.「日本摂食障害協会」による発信


 摂食障害の専門家集団に「日本摂食障害協会」があり、当事者と連携した穏やかな情報発信を続けています。同協会ホームページには、いくつかのガイドライン(スポーツ指導者のためのガイドラインなど)や調査報告(摂食障害当事者の就労に関する調査、コロナ禍の影響に関するアンケート結果など)が掲載され、専門家にも当事者にも、役に立つ情報源となっています。

引用文献


永田利彦、山下達久、山田恒ら 2018 無視されてきたダイエットと痩せすぎの危険性-痩せすぎモデル禁止法に向けて- 精神神経学雑誌120(9) pp.741-751.

永田利彦 2019 摂食障害治療の基本問題-やせすぎモデル規制に向けて- 心身医学59(3) pp.225-231.

西園マーハ文 2013 摂食障害は、「エビデンスフリーゾーン」にとどまるのか 日本社会精神医学会雑誌22 pp.82-91.

西園マーハ文 2017 摂食障害とこだわり 臨床精神医学46(8) pp.1009-1013.

(つづく)

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