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職業訓練に関わる社会資源とその問題(その4)

職業訓練に関わる社会資源とその問題(その4)
(「精神障がい当事者の就労支援あれこれ」シリーズ#38)

 精神障がい当事者への就労支援の「魅力と課題」を記すシリーズです。

 職業訓練に関する社会資源についてまとめています。今回は、障害者総合支援法における職業訓練施設である「就労移行支援」について、各種データからご説明しています。

13.就労移行支援における一般就労への移行率

 「資料」では、一般就労への移行率が示されています。

・サービス終了者における一般就労への移行率(令和元年):54.7%

 平成29年までは、50%を上回ることはなかったのが、平成30年・令和元年と50%を上回っています。ちなみに、この数字は「サービス終了者」を分母とした数字であり、利用者全体における移行率は、30%程度です。

 障害者総合支援法に基づき国が定める障害福祉計画・基本指針に、「福祉施設から一般就労への移行」という項目が含まれており、例えば、平成30年~令和2年の基本指針には「就労移行支援の利用者が、平成28年末と比較し2割以上増加していること」や「就労移行率が3割以上の就労移行支援事業所が、全体の5割以上となること」などが数値目標として定められているのです。ちなみに、就労移行支援の利用者は、これまで順調に数を伸ばしてきたものの、ここ2年は頭打ち(というか、減少傾向)となっています(前回の記事を参照)。

14.事業所ごとの就労移行率

 一般就労への移行率は、支援の力量などを反映し、事業所ごとに異なっている可能性があります。この点については、「調査」にも「資料」にも言及がないのですが、少し古めのデータであれば、厚生労働省作成の別資料に掲載されています。

 先ほど、障害福祉計画と基本指針について触れましたが、社会保障審議会障害者部会で、その見直しの検討がされていた時の資料(第98回・参考資料2「成果目標に関する参考資料」)には、

・就労移行率30%未満の事業所(平成29年):55.8%

と、過半数の事業所が、就労移行率30%未満にとどまっていることが示されています(この数字は、おそらく利用者全体を分母とした数字)。

 別の資料(障害福祉サービス等報酬改定検討チーム第13回・資料2「就労移行支援に係る報酬・基準について」)では、平成28年までの、一般就労への移行率別の施設割合が示されています(この資料では年次推移が示されていますが、ここでは平成28年4月のデータのみ引用)。

・一般就労移行率0%:29.7%
・移行率0%超~10%未満:5.0%
・移行率10%~20%未満:13.5%
・移行率20%~30%未満:14.2%
・移行率30%~40%未満:9.3%
・移行率40%~50%未満:6.3%
・移行率50%以上:22.0%
 (いずれも平成28年4月時点 強調は筆者による)

 就労移行率が0%というのは、誰一人として一般就労できていないということです。おそらくこの中には、開設後間もなく、まだ十分な数の卒業生を出せていないなどの事情がある施設が多く含まれているものと思います。けれども、その点を差し引いても、一般就労への移行が充分でない就労移行支援事業所が少なからず存在する、ということが分かります。

15.就労移行支援についてのまとめ

 就労移行支援は、障がい者の一般就労への移行を促す重要な役割を持っています。営利法人の参入もあり、施設数や利用者数は最近まで伸びてきました。一方で、一般就労への移行が充分でない(力量が乏しい)事業所も少なからず存在し、就労定着への支援など支援内容の充実と合わせ、今後の課題となっていると言えます。利用者の側からすれば、利用期間(2年間)を無駄に費やしてしまうことがないよう、利用に向けた事前準備(定期的に通えるよう生活リズムを作っておくなど)やリサーチを充分に行うことが大切になるでしょう。

(つづく)

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