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【シリーズ・摂食障害9】病気を理解するモデルとEE研究

【シリーズ・摂食障害9】病気を理解するモデルとEE研究
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

※長く勤めていた精神科病院を退職し、“街の心理士”へと華麗なる転身?を果たした「りらの中のひと」が、心理学やメンタルヘルス、日々の出来事などについて感じることを綴っています。

 摂食障害の理解と対応についての連載記事の、9回目になります。過去記事は、マガジンからご覧いただけます。

 「摂食障害9つの真実」としてまとめられた内容を、一つひとつ概観しています。その2番目の項目、「摂食障害と家族」について取り上げているのですが、今回は、そもそも精神疾患のメカニズムは複雑なのだということと、家族の方々の精神疾患への向き合い方の手がかりについて、触れたいと思います。

5.精神疾患は「生物-心理-社会モデル」に基づいて理解し対応する


 摂食障害の原因を家族(母親)の養育に求めるのは間違いである、と前回お伝えしました。

 摂食障害の発症や継続のメカニズムは、後に詳しくお伝えするのですが、ここでは、そもそも(摂食障害を含む)精神疾患を、どのようなやり方で理解し対応するのか、についてお伝えしておこうと思います。そのモデルを「生物-心理-社会モデル」といいます。

 簡単にいえば、精神疾患の発症や継続、治療や対処について、3つの視点から総合的に理解し対処する、ということです。「生物」の視点では、体質(遺伝の要素を含む)や生理学的変化に基づく症状などに注目します。「社会」の視点では、環境要因やストレスが精神疾患に与える影響などに注目します。「心理」の視点では、ストレスをどう認知し対処しているのか、などに注目します。

 成果主義の強い職場(社会)で強いプレッシャーを抱え(心理)つつ、生真面目に取り組み続け(心理)、連日深夜に帰宅する生活で気分転換は「気晴らし食い」だけ(心理)の生活を続けるうちに、就寝困難になり(生物)、出勤困難になってしまった。今後の生活を思い悩み(心理)、日中から「気晴らし食い」が止まらなくなってしまった。この例文中にカッコ書きしたように、摂食障害でも、病気の理解は「生物」「心理」「社会」の3つの視点から理解できることが分かります。

 「家族の養育」は、「心理」「社会」の一部に関わるものといえますが、あくまで「一部」であることが明らかでしょう。子どもさんの摂食障害であれば、学校や友人関係、ネットやSNSから伝わる様々な情報なども、「心理」「社会」的要因として考慮する必要があるからです。

6.EE研究から理解する「家族の向き合い方」


 精神疾患と家族との関係を理解する上で、常に引用される古典的な研究があります。Expressed Emotions研究(EE研究と略されることが多い)です。Expressed Emotionsとは、家族による患者への「感情表出」という意味で、家族は身近な患者様に対し様々な感情を抱いて接するものですが、その中でも「敵意」や「感情的巻き込まれ」等の感情表出が、患者の予後の悪さに影響する、ということが見出されたのです。

 「敵意」や「感情的巻き込まれ」は、家族同士の心理的距離が近すぎるときに起こります。家族メンバー個々人の境界(侵してはならない領域)があるのは自明のこととして、家族の中では夫婦の結びつきが一番強く、夫婦と子供との間には一定の境界があるものです。その境界をずかずか踏み越してしまえば、過保護または過干渉といわれる状態となります。精神疾患の回復の観点からは、家族は家族の生活を大切にしつつ(しばしば家族は、患者のために自分の生活を犠牲にし過ぎている)、患者の回復に協力し対処していく、という姿勢を持つとよいとされています。

 EE研究などから導かれた、精神疾患患者への家族の向き合い方は、家族心理教育の各種資料などをご覧いただけるとよいかと思います。なお、個別の生活上の事情に合わせた具体的な対応については、事情をよく知る治療者によく相談していただく必要があると思います。

 「摂食障害9つの真実」で、家族は当事者に責任を負うべき存在ではなく、治療やケアの援軍と考える、としているのは、EE研究のような知見があるからなのですね。

(つづく)

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