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【シリーズ・摂食障害10】アンケート結果からみた家族の「巻き込まれ」

【シリーズ・摂食障害10】アンケート結果からみた家族の「巻き込まれ」
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

※長く勤めていた精神科病院を退職し、“街の心理士”へと華麗なる転身?を果たした「りらの中のひと」が、心理学やメンタルヘルス、日々の出来事などについて感じることを綴っています。

 摂食障害の理解と対応についての連載記事の、10回目になります。過去記事は、マガジンをご覧ください。

 「摂食障害9つの真実」としてまとめられた内容を、一つひとつ概観しています。その2番目の項目、「摂食障害と家族」について取り上げているのですが、今回は、学術論文として公表されている、家族が患者様に対してどのように対応しているかを問うたアンケート結果を手掛かりに、家族の「巻き込まれ」を考えてみたいと思います。

7.アンケート調査・家族は患者様にどのように接しているか


 引用するのは、中本ら(2014)が行った、家族が困っている問題についてのアンケート調査です。著者らが勤務する医療機関の家族会に参加した家族31名(有効回答)が分析対象という、小ぢんまりしたアンケート調査なので、客観的な知見というよりは、一つの仮説的な視点を提示するものと考えていただくといいかと思います。

 アンケートは、摂食障害に関わる症状を17項目提示し、「本人にその症状があるか否か」「家族はその症状にどの程度困っているか(最小0、最大10で評価する)」「その症状にどのように対処したか、その対処はうまくいったかいかなかったか」を問うものでした。

 「本人の症状の有無」は、今回の記事の趣旨から外れるので省略します。まず、困っている家族の数が多い症状(の上位3つ)は、「食事のとり方にこだわりがある」21件、「生活に付き合わせる」18件、「じっとしていられない、一日中動いている」18件でした。困り具合の程度(中央値)では、「食べない」がスコア10(この症状を“困っている”とチェックした家族は、全員が“最大限に”困っている、ということ)、「偏食である」「食事のとり方にこだわりがある」「じっとしていられない、一日中動いている」など6項目が、スコア8でした。食べないことは、身体的健康を崩すことに直結するので、家族が困る(気掛かりである)というのは頷けるものがあります。

 症状への対処と、その対処がうまくいったかいかなかったかについては、興味深い回答がみられました。「家族を生活に付き合わせる」では、家族が「できる範囲で付き合った」「自分も一緒に楽しむように発想を転換した」が合わせて7回答あり、「家族との共同生活で不都合が生じる(トイレや風呂の長時間使用など)」では、何と「トイレを2か所作った」という回答が2件もあったのです(そしてそれらは、家族にとって“うまくいった”対処だと回答されていたとのこと)。患者様の症状に、家族が辛抱強く付き合っているさまが伺えます。

8.「巻き込まれ」は、当たり前の同情・共感から生まれる


 紹介した研究が示唆していることは、家族というものは「巻き込まれていく」ものだ、ということと、その「巻き込まれ」は、家族のもつ属性と考えるよりも、目先の患者様の症状・行動に適応した結果だ、ということかと思います。

 患者様の問題行動にさらされ続け、その結果うんざりした家族が患者様の言動に「敵意」(EE研究で指摘されていたもの)を抱いたとして、その心情は充分に理解可能です。そして患者様に同情・共感すれば「巻き込まれて」いくのは自然なこととも言えます。ただし、その結果として「トイレを増設する」ことが“当たり前の”対応なのかということは、話が別でしょう。

 家族というのは「巻き込まれていく」存在なのだ、ということを前提に、治療者や専門家のアドバイスを受けつつ、冷静に対処していくことが大切なのではないでしょうか。

引用文献
中本智恵美、鈴木裕也、高橋亜依ら 2014 摂食障害患者の症状について-家族が困っている問題に関するアンケート調査から- 心身医学54(4). pp.364-370.

(つづく)

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