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【シリーズ・摂食障害22】摂食障害が“治る”とは

【シリーズ・摂食障害22】摂食障害が“治る”とは
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

 摂食障害の理解と対応についての連載記事の、22回目になります。過去記事は、マガジンからご覧いただけます。

 AED(全米摂食障害アカデミー)が発表した「摂食障害の9つの真実」を一つひとつ検討しています。今回は、その最後の項目で指摘された、摂食障害からの回復は可能で、そのために早期発見と介入が大切である、ということについて、そもそも「“治る”とはどういうことか」を考えます。

4.摂食障害からの“回復像”には、幅がある


 摂食障害から回復する、とは、どのようなことを意味するのでしょう。

 これまでの連載記事で触れたとおり、摂食障害は、生物・社会・心理的背景をもとに、強いストレスや“実際にやせてしまうこと”などをきっかけに発症し、やせや食行動、代償行動や排出行為などによるさまざまな身体症状を呈し、社会生活を大きく損なってしまう病気でした。

 摂食障害の治療を“狭く”考える立場では、体重が健康上のリスクが容認できる程度まで回復し、身体状況(生化学データなど)が積極的介入を要さない程度に改善すれば「回復」とみなすことができるでしょう。身体的健康へのある程度の懸念や、心理面の症状は、とりあえず“置いておく”のです。

 一方で、治療を厳密に考える立場では、身体面はもちろん、心理的な症状の改善や、社会的な背景の問題がクリア(例えば、過食嘔吐の背景に職業上のストレスが見出される場合に、ストレスへの対処や環境調整がなされるなど)されて初めて「回復」を宣言することになるでしょう。

 摂食障害からの“回復像”には、このように幅があるといえます。支援者や治療者の価値観と、当事者や関係者の希望などを交差させながら、その人なりの回復像を描いていくものといえるでしょう。

5.「部分回復」をよしとする考え方


 摂食障害からの“回復像”に幅があるとはいえ、絶対に外せない要素というものは存在するもので、低体重からの回復は、摂食障害からの回復には欠かせません。極度にやせたままで健康を取り戻すことはできないのです。

 その上で、摂食障害の症状が全て消失した「完全回復」ではなく、症状は残存しているものの、身体的・社会的健康を大きく損なわず生活できる状態、すなわち「部分回復」を目指す、とすることも可能でしょう。「完全回復」とみなすための条件は、「部分回復」とする条件より、クリアするべき要素の数が多く厳密になることはいうまでもなく、「完全回復」には、ずいぶんと長い時間を要する場合も多いのです。当面の目標を「部分回復」とすることには、一定の合理性があります。

 実際、標準体重を多少下回ったり、過食嘔吐が残存したりしているものの、身体的健康に大きな問題がなく生活している方、やせ願望や肥満恐怖がありつつ社会生活を何とか乗り切っている方など、「部分回復」の状態で暮らしている方も多いのです。

 ただ、念のために申し上げておけば、肥満恐怖ややせ願望からくる患者様との“取り引き”は治療的ではない場合が多く、また特に若年者であれば、身体面の回復が成人後の健康に大きく影響する、ということを念頭に、妥協せず治療を進める必要があることは、いうまでもありません。

6.身体的回復が、心理的回復に先行する


 やせていたい、肥満が怖いという心理的背景からダイエットをきっかけに発症する、という順番を考えれば、心理面を矯正(やせ願望をあきらめる、など)してから体重が回復する、という回復像を描きがちなのですが、実際には、まず体重の回復があり、その後に心理的回復が続く、という順番で進んでいくようです(多くのエキスパートがそのように述べ、海外でのいくつかの研究からもそう示唆されている。参考文献参照)。摂食障害の治療では、治療者が「食べれば回復する」とアドバイスする一方で、患者様の立場では「それができれば病気になっていない」と“すれ違い”が生じがちになるものなのですが、治療者のアドバイスには理由があるのです。

参考文献
西園マーハ文 2012 摂食障害が“治る”とは?-摂食障害の経過と予後 医学のあゆみ241(9) pp.110-115.

(つづく)

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