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【シリーズ・摂食障害23】摂食障害からの“成長”を目指す

【シリーズ・摂食障害23】摂食障害からの“成長”を目指す
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

 摂食障害の理解と対応についての連載記事の、23回目になります。過去記事は、マガジンからご覧いただけます。

 摂食障害からの回復とはどういうことか、を考えています。今回は、目指すところは“成長”である、ということについてです。今回は短めです。

7.“回復”よりも“成長”を目指す


 一般的に、病からの回復とは、「元の自分に戻る」ことを指します。ところが、摂食障害を含む精神疾患からの回復とは、「元に戻る」ことではなく「新たな自分を手に入れる」ことを指す場合があります。メンタルヘルスにお詳しい方は、「リカバリー」という考え方が、単に自分から病気を抹消することではなく、病期との付き合い方を刷新することで新たな自分を手に入れるプロセスである、ということを意味するとご存じだと思います。

 小林桜児さん(医師)という方が、示唆的なことをおっしゃっています(引用文献参照)。摂食障害は“依存症”のような病気である。明確な生き苦しさはハード・アディクション(違法薬物乱用など)に関連するが、目に見えない息苦しさは、摂食障害のようなソフト・アディクションにつながる。両者はともに、「人を信じられない病」である。生き苦しさ息苦しさに対し、人を信じず頼らず、自分を殺し我慢し頑張り、苦しさに耐えきれず、薬物や摂食障害の症状に頼ってしまう。なので目指すところは単なる回復ではない。元の自分に戻ることではなく、人を信じ頼り、症状に頼らずとも生きられる新たな自分に成長することである、と。

 確かに、単に元の脆弱な自分に戻るだけでは、再発の恐れを抱えたまま生きていくことを余儀なくされてしまいそうです。摂食障害になり、そこから回復していくことを、患者様が“成長”と捉えることができるよう、支援者はケアしていくことが求められるでしょう。“街の心理士”としては、正常体重への復帰を目指すことは必須なのですが、それだけでなく、その後の関わりも大切にしたいものです。

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 AED(全米摂食障害アカデミー)が発表した「摂食障害の9つの真実」を一つひとつ詳しく検討してきました。摂食障害は、身体へのダメージが大きく、命の危険すら考慮しなければならない病であると同時に、これまで抱えてきた生き辛さ(息苦しさ)を正面から直面し、生き直す手がかりをくれるものでもあるといえそうです。

 ただ、低体重や排出行為がどのように身体的健康を損なうのか、摂食障害を抱えて生きる方の就労や挙児・子育ての苦労はどのようなものなのか、などなど、まだ触れていない話題がたくさん残されています。これから少しづつ紐解いていきたいと思います。

※「シリーズ・摂食障害」の連載は、この記事をもって、短期間のお休みに入ります。充分に準備し、充電し、一月後(6月下旬)をめどに再開する予定です。今しばらくお待ちください。よろしければ、その他の話題の記事もご覧ください。またお目にかかる日まで。

引用文献
小林桜児 2016 人を信じられない病:信頼障害としてのアディクション 日本評論社

(おわり)

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