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【シリーズ・摂食障害19】摂食障害の成り立ち・その背景

【シリーズ・摂食障害19】摂食障害の成り立ち・その背景
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

 摂食障害の理解と対応についての連載記事の、19回目です。過去記事は、マガジンからご覧いただけます。

 AED(全米摂食障害アカデミー)が発表した「摂食障害の9つの真実」を一つひとつ検討しています。今回は、前回に引き続き、摂食障害に遺伝(体質)と環境とがどのように関わるのか、ご説明します。摂食障害とはどんな病気か、どのように成立しどのように維持されるのか、当事者にとっても治療者にとっても、大切なポイントのひとつです。

4.摂食障害の病態・成り立ち


 摂食障害は、よって立つ立場の違いによって、その病態や成り立ちの説明の仕方が大きく変わるものと思います。私の記事は、医学的に標準とされる情報に基づくよう意識してまとめているので、ここでも、摂食障害の成り立ちを、医学はどのように考えるのか、ご説明したいと思います。

 摂食障害の成り立ちを簡単にいうと、「(遺伝(体質)を含む)背景要因に、誘発要因(きっかけ)が重なることで、生理的・心理的な悪循環に陥ってしまう病態だ」ということになります。図をご参照ください。

※ここでは、安藤・石川論文(2015)に基づき作図・解説しています。摂食障害の病態をシンプルに過不足なく説明している文献だからです。論文に図は掲載されていませんが、図中の解説は論文からの引用を含みます(記事末の文献参照)。作図は「りらの中のひと」によります。

5.摂食障害発症の背景要因


 摂食障害を含む精神障害に影響を与える要因を、医学では、3側面(生物学的・心理的・社会的)から考える、「生物-心理-社会(bio-psycho-social)モデル」については、既に過去記事(連載#9)で解説しています。

5-1.生物学的要因
 摂食障害において、発症に関わる生物学的要因とは何なのか、まだ充分に把握されているとはいえません。臨床場面では、摂食障害を始めとする精神疾患の家族歴等から、何らかの体質的な脆弱性を疑う、といった程度の理解だと思われます。前回の記事で触れたとおり、全ゲノム解析で見出されつつある(摂食障害と関連しそうな)遺伝領域や、エピジェネティックな機制などが関与しているものと考えられます。

 第二次性徴の発現による体型の変化などが、患者(患児)様のやせ願望を刺激してしまう場合を考えても、性的成熟は(栄養状態など環境因も関与するとはいえ)純粋な生理的・生物学的機序です。このような、直接発症に関わらずとも、その周辺で影響を与える生得的メカニズムを含め、生物学的要因とは、実に幅広いもの(それゆえ未知の領域も大きい)ものとご理解ください。

5-2.社会的要因
 心理的要因と社会的要因とは、セットで理解すると分かりやすいと思います。

 社会的要因(環境要因)では、元論文では、周産期の異常(これは、すでに述べたエピジェネティックな機制を含むものと考えてよい)、性的虐待(記憶の侵入など、トラウマ疾患の明確な症状が乏しいケースでは、トラウマ疾患以外の診断がなされる場合がある)、家族の不仲や親からの高い要求、家族のダイエット、食事・体形・体重への批判的なコメント、職業やスポーツなどが、列挙されています。摂食障害を好発する発達期の社会的ストレス要因では、家族や学校、友人関係の占めるウエイトが大きくなりがちだといえるでしょう。

5-3.心理的要因
 心理的要因としては、主に病前性格として自己評価の低さ、完璧主義、不安の高さなどが元記事ではあげられています。また、元記事で触れられてはいませんが、ストレスへの対処傾向として過剰適応(自分の辛さよりも周囲の事情を優先し、我慢しがちな傾向)などをあげる場合もあります。自分の辛さを我慢する傾向に関連し、そもそも自身の内的知覚(空腹・疲労などの生理的変化や、心理的苦痛など)の感じにくさが指摘される場合もあります。摂食障害を好発する発達期では、社会的関係の拡大にストレス対処能の発達が追い付いていない、という事情を考える必要があるでしょう。

6.背景要因が乏しくとも発症しうる


 次回の記事で触れるのですが、摂食障害の発症は、実際に「やせる」ことが引き金になる場合が多いと考えられます。これまでに述べた背景要因が乏しくとも、何らかの事情で(例えば、単に友人や家族のダイエットに付き合う、といった事情でも)「やせる」ことがきっかけで発症する場合がある点に、留意する必要があります。

 その意味でも、過去の“悪者探し”には、あまり意味がありません。発症の予防には、標準体重での(医学的に不要な)、無理なダイエットを避けることが大切なのであり、また回復のためには、まず体重の回復を図ることが優先される、ということになります。

文献
安藤哲也、石川俊男 2015 心身医学の最新の視点 精神科臨床サービス15(3) pp.307-312.

(つづく)

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