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【シリーズ・摂食障害7】「健康そうに見えるが、実はひどく病んでいる」とは

【シリーズ・摂食障害7】「健康そうに見えるが、実はひどく病んでいる」とは
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

※長く勤めていた精神科病院を退職し、“街の心理士”へと華麗なる転身?を果たした「りらの中のひと」が、心理学やメンタルヘルス、日々の出来事などについて感じることを綴っています。

 摂食障害の理解と対応についての連載記事の、第7回目です。過去記事は、マガジンからご覧いただけます。

 前回の記事で、摂食障害に関わるエキスパートによる「9つの真実」をご紹介しました。ここからしばらくの間、この「9つの真実」を検討しつつ、摂食障害の理解を深めていきたいと思います。今回は、「9つの真実」の最初の項目について概観していきます。

1.「健康そうに見えるが、実はひどく病んでいる」とは


 「9つの真実」の最初の項目は、「摂食障害をもつ方の多くは健康そうに見えるが、実は、深刻な病といってよい状態である場合が多い(Many people with eating disorders look healthy, yet may be extremely ill.)」というものでした。

 私の過去記事でも、メタボリックシンドロームなど、オーバーウェイトであることの健康への害は強調される一方、「やせすぎ」の害は過小評価されている、ということを取り上げました。「やせすぎ」の状態がどのように身体的健康を蝕むのかは、のちのち具体的にお伝えしたいと思います。

 それでは、低体重を来していない摂食障害(過食性(むちゃ食い)障害)の場合はどうでしょう。これについても後の記事で詳しくご説明できると思うのですが、低体重を来していない摂食障害でも、排出行為があれば、身体面への大きなダメージを被っている可能性が考えられます。

 摂食障害によるダメージは、身体面だけにとどまりません。それは精神面(心理面)や社会生活にも及びます。そしてそのダメージは、(精神疾患・障がいにおいては、概してそうなのですが)周囲の人には見えにくく、理解されがたいものなのです。

2.摂食障害による精神面(心理面)への影響


 摂食障害はさまざまな精神疾患と関連すると考えられています。摂食障害の背景の一つとして、発達障害やトラウマを想定する専門家は多く、アルコール依存症や窃盗症(依存症様の心理行動特性が強く認められる窃盗は、精神医学的診断(窃盗症・クレプトマニア)がつく場合があります)などの精神疾患を併発するケースも多いとされます。

 摂食障害と心理的特徴との関連も、さまざまなものが指摘されています。強迫(こだわり)やコントロール指向(思うとおりにしたい)、不安や自己評価の低さ、自分の知覚・感覚に確信が持てない(空腹や疲れなどを感じにくい)こと、過剰適応傾向、などが指摘されることが多いと思われます。これらの心理的特徴は、ある限られた生活場面ではとても適応的(“いい子”で頑張り屋、など)なのですが、摂食障害になることを通して、当事者の方を次第に追い込んでいくことになります。

 なお、神経性やせ症の背景に「成熟拒否」を想定することは、少なくとも心身医学の世界では一般的ではありません(そのように見える患者が一定程度存在する、としても)。若年者の“拒否”に対し社会が反応していた1960年代頃の歴史的背景(当時「登校“拒否”」と呼ばれていた不登校を、“拒否”と捉えなくなったことと似ていますね)や、拒食を“やり抜く”ケースよりも過食・排出へと移行するケースが多いこと、摂食障害を生きていく過程で結婚・挙児・子育てに至る、“成熟したとみなされる”ケースも多いこと、などに留意する必要があるでしょう。

3.摂食障害の社会生活への影響


 WHO憲章の中で定義されているように、健康には「社会的」な側面も含まれます。摂食障害を持つことは、社会的な健康をも損なう要因となります。

 サポートの得にくさや孤立は、摂食障害の当事者の方にはよくみられます。やせによる体力低下などの直接的な理由によるもの(登校・出社できないなど)だけではありません。夜間の過食・排出行為や明け方の低血糖などによる生活リズムの乱れ、会食場面や外出そのものへの不安(食べない自分を周囲がどう思うか不安、外出時に体調を崩さないか心配、など)などは、しばしばみられます。過食による経済的負担が大きい場合もあるでしょう。

 私たちが社会生活で出会う困難や障壁に対しては、それをケアする社会的な仕組みが整備されています(大きな意味で言う「社会保障」)。しかし、摂食障害に焦点化したサポートシステムは、医療面や福祉サービスでも立ち遅れているといわざるを得ず、今後の取り組みが強く期待されます。

(つづく)

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