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朝井リョウさん『正欲』『何者』にみる人物描写の凄さと、読後の粉砕

本屋さんへ行くと『正欲』が平積み。文庫版が発売になっているので気になって仕方ない…という日々を過ごしたので、読んでみました。

読む前には戻れない、とキャッチコピーにありましたが、まさにまさに。
「多様性を認めよう」という言葉がありますが、認めてわかった気になってんじゃねぇよ!と、ぼかんと殴られます。
自分の未熟さを感じながら読むので、途中から同類嫌悪のように〈わかった気になりたい〉とする女子大生の言葉が気になり始めます。
そして圧巻はその女子大生と、彼女が心惹かれている男子大学生との会話。
なんとしても「あなたのことを理解するから私」な彼女と「わかってもらおうとか思っていないから放っておいてくれ」なやりとり。息ができないほどのスピード感で読むのを途中で止められません。
また、検事の父親と、不登校の息子。不登校=人生の正しい道から外れていると思い、理解しようにも理解できない父の姿。
それぞれの登場人物が少しずつリンクしていき、最後は…となるのですが、そこまでの描写が、すごい。としか言いようがないです。
多分、性格や背景についてきっちりと設定されているからこその構成なのでしょう。

この構成要素がしっかりしているのは『何者』も同じです。
しかしながらこちらはまた、異なる世界。
直木賞受賞もうなずけます。読んでいてヒリヒリします。

ヒリヒリする上に、最後にくるのが、え!という驚きです。
就活をしている大学生たち。就活情報を交換したりESを印刷したりするために仲良くしています。いいえ仲良くしているのは表面的なもので、お互いが言葉の裏側に相手を攻撃するとげを含み、そして自分を大きく見せたい気持ちであふれています。SNSに書き込んだり、その書き込みを見てまた何やら腹に思ったり。
自分スタイルを貫くように見せながら、実は他人のことが気になって仕方ない。その上に自分のことを過大評価している。そんな頭でっかちな大学生たちのリアルな姿(じゃなかったらすみません)が、描写されています。
確かに大学生の時って、だれがどこに就職が決まったらしいとか、話題になったりしていたし、それでモヤモヤしたりもしたかも。
関係ないのにね、他人がどこに就職しようが、自分は自分の人生なんだから。
ただ、就職が早く決まることが、その人自身の価値になっているような錯覚でお互いが探り合いになっていくのも気持ち、わかります。
しかし!この『何者』はやっぱり「わかるよ君たち」な気分で読む読者のことも粉砕します。まさか粉砕されると思っていなかったので、そりゃもう驚きました。

というわけで今日は、朝井リョウさんの小説を2冊取り上げました。
ぜひ、ぜひ読後粉砕されて、読む前の自分に戻れない体験を!

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