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【シロクマ文芸部✖️#曲からストーリー】君のとなりを歩いていたいから。


ただ歩くだけ。
なのに、私には苦痛でたまらなかった。

私の足はもう動かない。

そんなことを淡々と言われても
ちっともピンとこなくて。


隣では母が医者とこまごまと話を詰めていて。
私の足は自分の意思ではピクとも動かなくて。


何が、起きてるの?

これは、夢なのかな。

ぼんやりとした頭の中には
何一つ言葉が入っていかない。


どうして。

どうして?

私なの。


私はその日、
ただ自転車を漕いでいただけだった。


車を運転していたその人は、
何度も私の家にやってきた。


私の足になるんだって。

私の足に?

なにをいってるの?

私の足は私のものだ。
あなたになんか変われない。



という言葉を飲み込んだ。
あなたには何も教えてなんてあげない。


私の中にどんどん黒いものが渦巻いていく。
ただひたすら、唇を噛みながら
黙々とリハビリを繰り返してた。



そのうち少しずつ動くようになって、
車椅子の練習をするようになって。
無言の私の隣で、
その人はゆっくり歩いている。

時折、ぽつりと言葉を吐く。
横に咲いている花とか、今日のお月さまの形とか。
きっと私が、前しか見ていないから。

ー話すつもりなんてないし。

帰っていいなんて言ってあげない。

だけどひたすら無言の時間がたまらなくて。

ヒグラシが鳴いている坂道で
さぁっと夏風が吹き抜けていく。


背中を押してもらいながら登り切ると、
突然目の前に真っ赤な夕焼けが姿を現した。



坂の上でピタッと止まった私と彼は
きっと同じことを考えていたに違いない。

こうまでしないと、生きられないのか。
こうしてまで、私は生きていたいのか。

目からぽろぽろと涙が溢れて止まらなくなった。


彼がどう思ってるかなんてどうでも良くて。
泣き止むまで、その人は静かに隣にいてくれた。



秋になり、冬になり、再び夏を迎える頃。

私の足は奇跡的に回復し、
家の中なら歩けるようになった。

少しずつ彼とも話をするようになると、
彼はこんな話をしてくれた。

「実は幼なじみも脚を患って歩けなかったんだ。そのまま悪化して数年前に息を引き取って。その時僕は何もしてあげられなかった。話を聞いてあげることさえ」

ああ、そうか。
私はその子の代わりなんだ。
そう気づいた途端、足が痛むような気がした。
時計の針の音がやたら響いて聞こえる。

「僕はそれから、なんでも適当にこなして生きてきた。みんなどうせ死んでしまうんだ、って。

でもあの時、真っ赤な夕陽に涙を流した君を見て、精一杯生きようと頑張る君の姿が眩しくてたまらなくて。支えたい、一緒にいたい、って思ったんだ」


彼は私と同じものを見ることができる人だと知っていた。

あの真っ赤な夕陽も、落ち葉が次々と落ちて作り出す鮮やかな並木道も、雪がちらつくイルミネーションの街並みも、私が大切だと思うものはいつも大事にしてくれた。

「これからも、よろしくお願いします」

私がそういうと、彼は嬉しそうににっこりと笑う。

これからたくさんの季節を一緒に過ごしても、
私は私の足で歩く。
だって私たちは合わせて一つじゃない。
私とあなた、別々だから大切にできるの。

だからこれからも、
わたしはあなたの隣を、ただ歩く。
それだけでいい。
それがいい。




バンプは私の青春を共に駆け抜けた。
そして今でもそばにいる。

この曲からのストーリーを考えていた時、シロクマ文芸部さんの「ただ歩く」というお題を見た瞬間このストーリーが降ってきました。


シロクマ文芸部さま、素敵なお題をありがとうございます❗️



🔻『#曲からストーリー』にも参加しています🎵


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