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【シロクマ文芸部✖️曲からストーリー】向日葵

ああ 向日葵のように咲いて
天を仰いで笑って
ただ真っ直ぐな
あなたのようになりたい

「向日葵」歌詞より



ヒマワリへ。

まず最初に、
あなたに謝らなければなりませんね。

夏が終わったら私は、
東京に行って手術を受けなければなりません。

成功するかもわかりません。

ひょっとしたら、
記憶がなくなってしまうかもしれません。


黙っていてごめんなさい。

どうしても言えなかった。

ヒマワリとずっと一緒にいたくて、

炎天下にいっしょに向日葵畑に行って
倒れてしまった時も、

夜中にこっそり抜け出して
海までチャリで駆け抜けたあの夏も、

二人でドライブに出かけて山の頂上から
夏の大三角を眺めていたあの夜も、


ずっとあなたになりたかった。


屈託なく笑って、
生まれ変わってもまた今の自分がいい、
なんて素直に言える。
嫌なことは嫌だってちゃんといえる。

臆病で、すぐ落ち込んでしまって、
好きなものを好きとも言えない弱い私を
私と認めてくれる、あなたになりたかった。

あなたに会ったら
きっと決意が鈍るから。

ごめんなさい。

ありがとう。

たくさんありがとう。

さようなら。


……


手紙を書き終えると、病室の外からバタバタと大きな足音がしたかと思うと勢いよくドアが開いた。

「ちょっと、アオイ!」

ヒマワリは息を切らして、ぽかんとしている私の目の前につかつかと駆け寄った。

「なんで教えてくれないのよ」

ヒマワリは紅潮した頬を膨らませて私をじっと睨んでいる。

「ご、ごめん、あの、あのね…」

突然のことに言葉が出てこない。
アオイはふと気づいて、手元にある手紙をヒマワリに渡した。

ヒマワリはさっと受け取って数行読むと、すぐに白い便箋をつっ返してきた。

「なによこれ、遺書じゃないんだから」

ヒマワリはなにかを堪えるようにぎゅっと手を握り、片隅に置いてある椅子を自分で持ってくると、ベッドの隣に置いて腰を下ろした。

「もうアオイのお母さんのとこに行って聞いたわよ。教えてくれたっていいじゃない。私だって最後までそばにいたい。しらない間に、もしかして、アオイが、なんて…」

「ごめん。ごめんね」

アオイはそれしかいえず、俯いたまま言葉を発しないヒマワリの手に、そっと自分の手を重ねた。

「ごめんね、私も怖かったの。ねぇ、聞いてくれる?ゆっくりになるけど、もしかしたら私の記憶がなくなってしまうかもしれないけど。ヒマワリに覚えていてほしいから。これからもずっとそばにいてほしいから」

恐る恐るそういうと、ヒマワリは赤くなった目を隠さないまま顔を上げてニッコリと笑った。

「もちろんよ」

その顔は、いつか見た向日葵畑のどの向日葵たちよりもずっと眩しく輝いていた。私もつられて笑顔になる。

そうやって私をあっという間に笑顔してくれるヒマワリは、私にとって永遠に枯れることのない太陽なのだ。





最近Adoさんの「向日葵」をよく聞いては歌っています。覚えたてがいちばん楽しい。

そんな時ふと飛び込んできたシロクマ文芸部さんの「ヒマワリへ」のお題に、やっぱりまた「曲からストーリー」とコラボさせてしまいました。

お日様を向いている時も、夜に俯いている向日葵も、どちらもかけがえのない向日葵であることを、忘れないでいたい。







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