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ヘテロゲニアリンギスティコ読書感想文 -あいまいなものをあいまいにしておく-

面白すぎて、即購入してしまいました。

これはすごい才能と研究の成果だと思います。まず、両手離しでブラボーと言わせてください。ずっと続いて欲しいマンガだわ〜。

すごいところを褒めていったら、7億字書けちゃうので、最初に書くことを決めておきます。

・ストーリーライン
・すんごく気持ちよく頭を使わせてくれる
・わかんないとそうだよ!そうだよ!
・やさしい〜

ストーリーライン

人間の言語学者のセンセイが、魔界に行って、ワーウルフ、スライム、リザードマン、ハーピーなど異種族と触れ合いながらフィールドワークを通じて言語の調査を行っていく。

魔界には気球で行けます。人間世界と変わらない物理法則が働いています。登場人物はワーウルフやスライムなど、ファンタジーの住人で身体的な差異はあれど魔法とかも存在しません。そしてもちろん、これが本書の中核を担うところですが魔界の「共通言語」など存在しないということです。

ファンタジーならなんでもありっていう風潮を、全く良しとしない強硬な姿勢が気持ちいいんですよ。これは絵柄からは想像つかない硬派なSFですよ!

すんごく気持ちよく頭を使わせてくれる

硬派なSFですよ!と書いたけど、いったん撤回するね!この発言がもとで、門戸を閉じるようなことがあっちゃなんねぇなと思ったからです。気軽に読みはじみていただけたら大丈夫です。絵柄もかわいいし。

読んだほうがいい理由は、簡単に言うと気持ちいいのよ。脳が。

気持ちよく頭を使わせてくれる一例を挙げます。
センセイが魔界で最初に出会うワーウルフ族は、センセイがワーウルフ語を勉強していたのでコミュニケーションが比較的成立しています。そんな中センセイは届け物を頼まれるんだけど、誰に届けていいかを教えてもらえません。その理由をセンセイは推測するんだけど、ワーウルフは嗅覚に優れているから届け物の匂いでわかる、と。

ここで、読者の我々は思い込みから脱するんだけど、それは
・「わかりきったことは話さない」
・「わかりきったことは人や文化背景によって違う」
・そして「言語は音声に限らない(!!)」

こういう凝り固まった重い鎧を脱ぎ捨てたときの、そうだよ!そうだよ!気持ちいい〜!が何度もあるんです。

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※余談
「英語だと『お疲れ様』ってなんていいますか?」→「言わないな」とか、「日本語の『食べられますか?』が、親切にオススメしてるのか、可能なのかの質問なのかどうやって区別するの?」→ 食べ物を差し出しながら言ってる状況なら両方でしょとか、

そういう、一見、腑に落ちない答えは、外国語を勉強したり、旅行したりするとき実際良くあるんだけど、その感じの「あ〜!あるよな〜!」が追体験できるのが素敵ですね。言語は言葉のみで成り立ってなどいないのです。

わかんないとそうだよ!そうだよ!

謎があったときに謎は完全解明されなければならないというのが、マンガでの謎の取り扱いの基本だと思うのですが、現実にはそもそも用意された謎などほとんどないし、完全解明される謎もあまりないと思います。

このマンガでは現実に即してやっていて、わからないことがセンセイの身に降りかかったときセンセイはわからないまま「やってみよう」を選択するんです。で、センセイなりの推測をするんだけど、基本的には答え合わせの機会などないので、いまわかる情報をマークして「後で分かるかもしれない」として先に進むんです。 

センセイにとって「語られないこと」は人間の五感の範疇を超えるもの(聞こえない音、見えない色、動き)だったり、単にそういう文化じゃないということだったりするんだけど、推測は推測として

わからないものはわかるまではわからないままにしておく

その分、エウレーカ!の気持ち良さが違うんですよね

やさしい〜

作中、いろんな種族が同時にでてきて、彼らも共通言語がないので初対面ではお互いのコミュニケーションが取れる方法を探るところから始めます。

発声を軸に初対面では音声に限らないコミュニケーションを模索します。

彼らにとって意思疎通できないのは普通なので、それが相手に知性がないとか失礼だとか悪意があるとか思わない。一例として、しゃべらない相手にセンセイが怒らせちゃったかなと心配するときワーウルフの少女が怒るほど、相手はセンセイを知らないよと言うシーンがあるんですが、やさしい〜。

どの種族のどの登場人物も温厚で、怒ったりしないんです。

おわりに

そうなんだよ。そもそも相手とコミュニケーションがとれているかどうかは、本当には知りようがない。だけど心配する必要はない。

・・・というような、難しそうなことを、色々言ったんですが、ここに書いた2000字ほどのことは、マンガの方を読めば、言いたいことは伝わると思うので読んでない人は読んでいただければ、と。

個人的には「わかる水」(スライム族)とのコミュニケーションがもっとみたいなと思っています。生態が不思議すぎるので。


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