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綿矢りさ:パッキパキ北京 読了:感想ネタバレなし。

綿矢りさ:パッキパキ北京 読了:感想ネタバレなし。

兎にも角にも「人生エンジョイ勢」を極める主人公アヤメのメンタルが羨ましい。誰しも人に気を使って人生を生きている。折り合いをつけて調整している。そんな中、主人公のアヤメは時折、結婚している主人に対して折り合いをつけているがその時の感情を大切にするアヤメは自分の人生の指針をずらすことなく答えを出していく。

中国に海外赴任している旦那さんに帯同するために中国に行くことで迫られる人間の適応能力。通常なら会社の中で研修があり、文化や宗教、食習慣などを勉強して挑む海外赴任だが、アヤメは難なく適応していく。本の帯の言葉にもあるが、アヤメが適応していくのではない。中国がアヤメに適応していくのだ。「適応するって何?世間が私に適応すべき」というような一文があり、まさにその通り生きれたらどれだけみんな楽かと感じた。

よく作家の中期ごろになると、食べたものや訪れた建物を描写して文章に落とし込むことで小説を書くことがあるが綿矢りさが旦那さんの中国赴任の時に経験した体験を小説に落とし込んだ物語であることは間違いないそうです。

綿矢りさの特筆すべき点に「現代的なボキャブラリー」があると思います。これはあと10年もすれば古いものになってしまうかもしれないボキャブラリーなのですが、2024年現代において秀逸なあだ名付けは笑いを誘い、もっと読みたいという気持ちにさせてくれます。

あとは、この本に書かれているのは現代を生き抜く精神性を研ぎ澄まそうということだと思います。誹謗中傷、上司や部下からの圧力、夫婦問題、嫁姑、クラスメイト、同期など様々な人間関係がありますが、SNSやコミュニケーションが発達している現代において人間関係によるストレス。文化が合わないなどのストレスというものをこういう風にしたら生き抜けるんじゃない?という問いかけがこの小説には詰まっています。

その生き方に賛否はあるでしょうが、その賛否すらこの小説の主人公であるアヤメは肌に感じることもなく、自分の心地よい生活を維持することを最優先して賛否を置いてけぼりにすることでしょう。

痛快エンターテイメントと銘打っていますが、痛快かどうかは読んでみてあうあわないはあると思います。ただ自分は主人公のアヤメの性格の要素を30%でも併せ持って生きていけたらと感想を持ちました。

あちらこちらで人間関係、お金、意見の食い違い、文化の違いによる軋轢がなぜか生まれてしまって苦しんでいる現代人にとって一見の価値ある小説ではないでしょうか?適応を迫られるくらい人間以外の文化は発達しすぎた。発達しすぎた社会に人間が適応できないのは当たり前であり、発達した文化の海をクロールで早く、優雅に泳いでいくには人間の発達を急ぐ必要がある。しかし、人間の発達とはどのようなものであるのか。主人公のアヤメの考え方に少しのヒントが見えるようです。

ではでは。

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