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リオネル・メッシ。バルセロナで選手以上の存在。

ナプキンで契約した少年は天才だった。

頭一つ出ている程度の話ではない。6度のバロンドールを受賞する空前絶後の天才。

突如現れたレシャック最後の隠し球はドリブラーとして開花する。

あらゆる試合で空間を切り裂き、カペッロのユベントスを相手に右サイドを蹂躙した。その切れ味は「1年でいい。貸してくれ。」と試合中に言わしめた。

ペップが戦術的革命をもたらした短くも濃い年月のうちに、偽9番の先駆者として覚醒。ロジカルな戦術に彩られたバルセロナ黄金期、高レベルの均質化に隠れた突然変異種と化す。

敵の間に突然現れ、通った1本のパスが致命傷になる位置取りと殺傷力は、ポジション・メッシと言って相違ない。年間91ゴールは超人的である。

今日まで、5人抜きや国王杯決勝に代表される単独突破の健在ぶりに加え、ゴール前の強振と繊細なタッチを使い分ける左足は無双と言うに相応しい。

その左足は多くの心を救ってきた。

パリに4点ぶちこまれ、ミランに2点突き放され、ベルナベウで押し込まれてもなお、あらゆる逆境を撥ね返してきた力の源流。

もうだめだと思ったところを、メッシという脈絡で活路を創る。

「何が起ころうと、我々には彼がいる。」

この男が敵でないことに、クレは畏怖を以て敬服し、陶酔し、リオネル・メッシのプレーに夢を見るようになった。

どれだけ嫌なことがあっても、何かと闘わなければいけなくても、幾数人の敵に囲まれる逆境を小さな体で突破し、強襲で点を獲り、それに呼応したバルセロナが躍動するのを見ると勇気が出た。力をもらった。「頑張ろう」と思えてきた。

近年のバルセロナにおける象徴であり、唯一無二の存在。

だからこそ、そのプレーを披露し世界中を楽しませたからこそ、最後の花道はシャビのごとく盛大に、それ以上に。世界の誰も見たことのないようなセレブレーションで送り出す必要があった。

それが与えてもらった人間ができる唯一の恩返し。

誰がこんな形を望んだのか。

考えられるだけ最低の状態を作り出せる手腕、心の底から軽蔑する。

メッシはクラブに与えられてきたものをプレーで返してきた。それは必要以上のものだったはずだ。彼がいなければどうにもならなかった試合なんて数えきれない。

知ったこっちゃないということなのか。仁義も筋も通さず、すぐに会おうとする誠意もなく、要らなくなったらモノのように放り出した、それに似通った扱いをクラブ史上最高の選手であっても構わずやろうとするのか。その発想はどこから来るんだ。

いや、知りたくない。理解したくない。

聞きたくもないし顔を見たくもない。

何もかも奪っていった。すべて。

哲学も、自信も、金も、選手も、尊厳も誇りも何もかも無くなった。

一つだって返せないくせに。欠片だって創れないくせに奪えるだけ奪っていった。

とどめに、メッシから笑顔を奪った。やり場のない怒りをピッチで爆発させる姿を誰が望んだだろうか。

見る影もないバルセロナだけが残った。

メッシがいなくなること自体は一つのサイクルだろう。ここから新しい血が入って、また時代を築いていく。

そんな結果の話は問題ではない。サッカー史に残るであろう最低な別れ方が透けて見える未来と、諸悪の根源はまだ椅子に座っている事実への、重すぎる絶望感を呪っている。

彼が一番絶望しているだろう。何度も何度も主張し、このままじゃだめだと言い続けた。結果、何も変わらないどころか状況は悪化した。

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「バルセロナが要らないと言うまで居続ける」と話した人間を、どうしてここまで絶望させられる。

深い愛が鋭い憎悪に変わった瞬間を正確に察することはできない。

ただ、その意味でサポーターは今日が決定打だったはず。

カンプ・ノウへ集まることはできなかっただろう。盛大に催すどころか、縮小は避けられなかったかもしれないし、そもそもできなかったかもしれない。

それでも、メッシに笑って、彼を取り巻くすべてに、バルセロナに誇りを持って、心からのありがとうを投げ合ってお別れしたかった。

そんなことすらも叶わないのか。
もうそんなことも望めなくなってしまったのか。

世界中どれだけの人が、クレが、メッシに感謝しているか。

この時代に生まれ、彼のプレーを見られた幸福を、それで救われたことをどれだけ伝えたいか。

何もできない。何もしてあげられない。声援も届けられない画面の向こうから、せめて好きなチーム、好きな選手を応援している気持ちだけでも届けと試合を観てきた、全サポーターへの明確な裏切り。

絶望感と虚無を残し、体に染み渡る殺意を生んだ。

日本時間で2020年8月26日。

何もかも手遅れだと、メッシが伝えた日。

この日を絶対に忘れない。

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