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さようなら大坂さん… 全米オープン2021 #1

 全米オープンテニスは男女ともにベスト8が出揃いそろそろ大詰めです。今年の話題はまず「フル観客」です。誰もマスクをしていません。そして早くからフェデラーとナダルの欠場は決まっていましたが、もうそんなことは忘れたかのように客席は熱狂のるつぼです。何が起こっているのでしょう?その前に我々にとっては悲しいニュースからです。

この世界はいつも残酷…

 実に皮肉なものです。今年始めの全豪オープン、セリーナ・ウィリアムを破った大坂さんがルンルンで(←死語ですか?)会見場に姿を見せた一方で、敗れたセリーナは会見の途中で泣きながら退出してしまいました。このことはすでに書きました👇 

 そして今回、泣きながら会見場を後にしたのは大坂さんでした。勝ったのは18歳(試合当日)カナダ・モントリオール出身のレイラ・フェルナンデスです。冒頭の写真がそのレイラちゃんです。第3シードの大坂さんを始め、シード選手をさらに2人倒して現在ベスト4です。

 敗戦後の大坂さんの会見、やはり遠慮がちに質問が始まりました。これまで全く触れてこなかった大坂さんの「メンタルヘルス」問題ですが、ここで少し書いてみます。英語での質問に3つか4つ答えた後、いつものように日本の記者から日本語で質問がされました。質問の主旨は「大会前、ソーシャルメディア等で心境の変化について発信していたが、今回の敗戦では何か気持ちの変化はあったか」というものでした。あまりいい質問とは思えません。(ちなみに大坂さんは日本語の質問にも英語で答えます)

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失意の会見…

 英語の質問にすらなかなか上手く言葉が出てこなかった大坂さんでしたが、この日本語の質問に対しては更に言葉が上手くつなげられず、「本当に泣きたくはなかったんだけど…」と途中から指で涙をぬぐい、サンバイザーを深く被り直します。

 そこで司会者が「もうこの辺で・・・」と会見の終了を告げようとしますが、大坂さんは「最後まで答えたい感じです」と続けようとします。今にもバラバラに崩壊しそうな心を懸命に両手で支えながら、一つ一つ言葉を絞り出しますが最後には「正直、、次の試合がいつになるかわかりません」「しばらく競技から離れて休もうと思います…」と涙で崩れた顔の前に不釣り合いなサムアップした両手を掲げて見せた後、マスクをして席を立ちました。

 もう痛々しくて見ていられない会見でした(いや見ましたが)。彼女の心の状態は相当に深刻だと誰が見てもわかったでしょう。今や大坂さんにとってテニスは苦痛でしかないと思います。

 この翌日、ニューヨークタイムズが 、 « Why Does Playing Tennis Make So Many Pros Miserable? »「テニスというものは何故これほど多くのプロ選手を不幸にするのか?」と題した記事を掲載し、大坂さんを始め過去から現在まで心を病んだ選手の例を紹介し、テニスというスポーツの精神性について考察していました。

 大坂さんのこれまでの成績をまとめると、最高ランク1位。WTAツアー優勝回数は7回、そのうちGS(4大大会)が4回です。実はこれ、異常な事です。普通は格の低い大会で何度か優勝し、中くらいの大会、そして大きな大会とステップアップするものです。そうした中で、GSのベスト8やベスト4に何度か絡み、ようやく念願のビッグタイトルが見えてきます。いやそもそもそこまで行けずに競技生活を終える選手がほとんどです。

唯一の解決策は…

 しかし大坂さんは3段飛ばしで女子テニス界のピラミッドを駆け上がってしまいました。それだけでなくソーシャルメディアでもたくさんのフォロワーを得、その「評判資産」をもとにインフルエンサーとなりブランドや雑誌のアイコンとして広く世間に知られます。さらにBLM運動にも深く関わり社会現象となりました。テニスの長者番付ではフェデラーに次いで2位になってしまいました。

 しかしおそらく、それでも彼女の心は昔から何一つ変わっていないのです。彼女自身も度々口にしているように、中身は少女のままです。ただひたすら姉のまりさんに勝ちたくてコートを走り回っていたあの頃のままなのでしょう。

 しかし一方、大坂さんの純粋な心とは裏腹に、彼女を取り巻く世界は大きく変わってしまいました。どこかで聞いたような話ですが、こういう場合、大抵はもう元には戻れません。彼女自身のためには、もう引退しかない…と私は思っています。世界が Naomi Osaka を忘れる日まで、心と身体を休めてほしい。またいつか、テニスが心底やりたい!と思えたら戻ってくればいいですよね。

無邪気な天使

 さて大坂さんが沈んでいく一方で、こちらは幸せビームを放出しまくっています。繰り返しますが皮肉なものです。私は以前大坂さんを「残酷な天使」と表現しましたが、ディフェンディングチャンピオンを葬ったこの天使は倒した相手のことを気にかけている様子は全くありません。会見では、「正直ナオミのことは考えていなかった。とにかく自分のことに集中していた。自分のテニスを信じようと自分に言い聞かせていた」と答えています。

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 フランス語・英語・スペイン語を操るこの少女は今大会最も注目を集めていると言ってもいいでしょう。ベスト4が決まった時点で、なんとNBAのレジェンド マジックジョンソン!や、自国カナダのトゥルドー首相から祝福のツイートを送られています。今月6日で19歳になりました。当然会見場は笑顔と笑い声に包まれています。

 168cmの左利き。この華奢な身体のどこにこんなにスタミナがあるのかとびっくりしますが、それが若さってやつですか。大坂さんと戦った3回戦からは全てタイブレークを含むフルセットマッチで、しかも全てのタイブレークを獲っています。即ち「クラッチプレイヤー」(ピンチに強い)と言えるかもしれません。この体格ですからビッグショットは持っていませんが、ピンチの時ほど正確で相手の裏をかく賢いプレイをしてきます。それが観客を沸かせるわけです。ですので客席はほぼ彼女の応援に回っているんじゃないでしょうか。

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 でも本当にまだあどけない少女です。インタビューでもお父さんやお姉さん、そして妹のことがよく出てきます。学校の友達からいっぱいメッセージが来たとか…

 準決勝の相手は第2シード、ベラルーシのアリナ・サバレンカ(23歳)です。183cmのパワーヒッターです。打つ時の叫び声もやかましい人です(笑)。まさに「柔」対「剛」の対決が見ものです。

 まだまだ話題は尽きないのですが今日はこの辺で終わりにします。ここまで読んでいただきありがとうございました。

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