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東京パラ2020 車椅子テニスでどうしても気になったこと

今回のパラリンピックで、実は初めて車椅子テニスをじっくり観戦しました。そこで、感想や不思議に感じたことを書いてみます。

バックのグリップはどうしてそんなに厚いのか?

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これは金メダルに輝いたオランダのディーデ・デ・グルート(24歳)です。ここから彼女はどう打つのでしょう? テニスをしている人なら、「バックのスライスでしょ」と簡単に答えられると思います。

ところがどっこい、ドライブ(トップスピン)を打つのです!

軟式ならともかく硬式テニスでこのようなグリップでドライブを打つ選手を見たことがありません。片手バックの名手、リシャール・ガスケやグスタボ・クエルテンでもここまで厚くはありません。しかし車椅子テニスではほとんどの選手がこのようなめちゃ厚いグリップでバックを打ちます。なぜなのでしょう?

地面と一体になれない車椅子テニス

今回、車椅子テニスを観戦していて、運動学的(?)に見て最もテニスと違う点は「地面の反力を活かせない」ということです。例えばボクシングですと、足の裏で地面を押し(つまり反力を受け)それを最終的に拳に伝えることでいわゆる「体重の乗ったパンチ」が打てます。野球の投手なら最終的に指先を通してボールに、打者ならバットを通してボールに、というわけです。ほとんどのスポーツにおいて、この「地面の反力を効率よく伝える」ということが技術の全てであると言ってもいいと私は思っています。

ところが車椅子テニスの場合は足の裏の代わりに車輪です。これはやっかいです。常にころころと転がるからです。これでは上手くボールにパンチを与えることができません。ですから車椅子テニスでは腕の力だけでボールにパンチを与える必要があり、その結果このようなバックのグリップになったのだろうと推察しています。ではなぜこの厚いグリップだとボールにパンチを与えられるのでしょう?

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先ほどのデ・グルートです。ボールコンタクト直前です。ここから、今下を向いている面でボールを捉えます。急に小難しい話になりますが、バックではドライブでもスライスでも上腕三頭筋が仕事をします。それに加えて、もしここからスライスを打つなら主に「前腕伸筋群」が、ドライブなら主に「前腕屈筋群」+「回内筋」+「広背筋」が仕事をすることになります。人間の身体はなぜか「伸筋」より「屈筋」の方が強い出力を持っています。そして屈筋(+回内筋)に働いてもらうにはこのグリップが最適です。(サーブのグリップと同じ理屈です)ですから、足元が不安定な状態でよりボールにパンチを与えるためにこのようなグリップ、打ち方が選択されていったのでしょう。

ちなみに、打つ瞬間にはラケットを持たない方の手で車輪を一瞬止めるのか、どう操作しているのか、まだまだ疑問は湧いてきますが、その辺は選手に訊いてみないとわかりません。

選手たちに特徴的な不思議な「眼差し」

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シングルス3個目の金メダルを獲った我らが国枝慎吾。冒頭の写真は世界ランク2位、イギリスのアルフィ・ヒューイット(23歳)

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こちらは銀メダル、オランダのトム・エフべリンク(28歳)。映像を観ていて、特にこの3選手の「眼差し」が気になって仕方がなかったのです。何というか、普通じゃない。いつも見ているテニスのトップスター達と何かが違うのです。それはどう表現したら良いのか… 笑っている時も、そうでない時も、眼の奥に「哀しみ」と「憎しみ」と「諦め」がごちゃ混ぜになったような、そんな色をたたえているように見えるのです。

それぞれの選手がこれまでどのような人生を生きてきたのか私にはわかりません。しかしここまで来るには並みの根性ではなかったと思います。普段の生活ですら面倒な数々の手順を踏み、しかも誰かの助けがなければ前に進みません。それに加えて練習や海外転戦など気が遠くなる作業です。そして生まれつきにせよ後天的にせよ、下肢の機能がない(或いは脆弱)ことで、悔しい思いや恥ずかしい思い、どうしても人の世話にならなければならず自尊心が傷ついたことなど数えきれないほどあっただろうと想像するのです。そんな経験が幾重にも折り重なってあの不思議な「眼差し」がつくられたのだろうか…などと考えたりしていました。

もちろんこれは100%私の想像であり、「障害者は色々苦労しているだろう」というステレオタイプの偏見があるのかもしれません。それにこのことに関して誰も答えを知りません。しかし今回の車椅子テニスの観戦で最も印象に残ったのは彼らの「眼差し」であった、と書いておきたかったのです。

さて一方、ハリケーン「アイダ」が猛威を振るったニューヨークです。それでも全米オープンテニスは1週目が終わり話題が目白押しです。書きたいこともいっぱいあるのですが今日はこの辺で。。。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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