金曜日のショートショート13

金曜日のショートショート(第13回目)
テーマ:御伽噺

『めでたしめでたし』

 「おとぎ話を作る」という不思議な課題が出された。小学校の国語の授業であれば、子どもの自由な発想で夢のある物語を作ろうということで、なんとなく理解できる。だけど、なぜ高校一年生の現代文の授業でこんなことをするのか。いくら私立とは言え、カリキュラムが自由すぎじゃないだろうか。しかも全員分をまとめて文集にするのが伝統らしいから逃げられない。
 高校生にもなれば、「めでたしめでたし」で世界が終わらないことをわかっている。もう夢ばかり見ていられない。

 とはいえ、これはあくまで課題だ。めでたすぎるハッピーエンドを作ったって誰も文句は言わないだろう。
 それならばと、私は隣のクラスの丸岡くんを王子に見立てた恋物語を考えてみることにした。
 彼は王子で、敵対する国の姫と……ダメだ。これは悲劇が似合う。彼は船旅で難破した王子で、海に投げ出されて……いや、これも悲劇だ。なんで咄嗟に浮かぶのが悲劇なのか。どうも思考が現実的でうまくいかない。というか、公開されるんだからあまり露骨なものは避けないといけないか。
 結局私は、王子が魔王を倒して、捕らえられていた姫を助けるという、おとぎ話的でありながらも、世界的に有名な某アクションゲームに似た設定の物語を作った。
 私の名前が桃谷で「桃」だから、ほんの少しだ匂わせていないこともないのだけど、こんなのきっと誰も気づかない。これは単純な自己満だ。

 三月になり、全員の課題が掲載された文集が公開される。丸岡くんの書いた物語は魔女にさらわれた姫を青年が助ける話だった。
 ところで、姫の名前がピーチなのは偶然だろうか。それともこれは、いわゆる「めでたしめでたし」なのだろうか。

【企画概要】
『金曜日のショートショート』は、隔週金曜日に、お題に沿って少し不思議な短編、いわゆるショートショートを書く企画です。
*次回(10/23公開予定)の第14回のテーマは『たまご』です。企画の詳細や過去のお題はマガジンの固定記事をご覧ください。

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