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【ご報告】高校時代より取り組んできた読書教育と谷津凜勇の今後について

UC Berkeley 2年生の谷津凜勇です。
最近知ってくださった方にとっては寝耳に水かもしれませんが、ずっと僕のことを見てくださっていた方のために、完全に過去形になってしまう前に改めてご報告させていただきたいことがあり、noteを書いています。

読書教育への取り組み

僕は、コロナ禍の真っ只中だった高校1年生の春に、子どもの本を紹介するフリーペーパー「月あかり文庫」を創刊しました。幼少期に4000冊の絵本・児童書を読破した豊富な読書経験と、大人と子どもの狭間にいる高校生ならではの目線からおすすめの子どもの本を紹介するメディアです。もともと読書が好きだったので、趣味の延長として始めたところ、予想以上に好評を博したのを受けて、「事業」として展開するべく高校2年次には社会人の仲間を集め、ミッション「次の1冊に手をのばす喜びをすべての子どもに」を掲げて、代表理事として読書教育NPO団体 Dor til Dor(ドア・チル・ドア)を立ち上げました。

発行していたフリーペーパー

団体を設立後、読書を楽しんできた「先輩」として一緒に楽しみながら、子どもたちの未来に活きる読書体験を届ける​​ために、地元の印刷会社さまの協賛のもと発行体制を刷新。没頭して楽しめるような良い本を紹介することで、より良い読書経験を子どもたちに届け、読書の本当の楽しみを体感してもらうことを目指して、フリーペーパーの規模は拡大し、最終的には、累計発行部数が1万5000部を超え、図書館・書店・学校・カフェなど北海道から沖縄まで全国70ヶ所にて設置・配布するまでになりました。この活動は、全国高校生マイプロジェクトアワードにて2年連続で全国優秀賞を受賞したり、世界最大の社会起業家ネットワークASHOKAよりYouth Ventureに認定されたり、教育新聞や読売テレビをはじめ多くのメディアに取り上げられたりと、たくさんの皆様より高い評価・大きな期待をいただきました。

また、学校の読書教育の限界を補完し、子どもたちが読書の楽しさを実感できるよう、「自立した読者」を育成するために本質的な読書教育のあり方を模索するために、高校3年次には事業の幅を広げ、子ども向けの小規模な民間図書館「子ども文庫」のアップデートを企図した研究開発プロジェクトを始動。大阪NPOセンターより研究費を獲得して実際に数ヶ月間にわたって子ども文庫で非参与観察を行い、単著論文「子ども文庫に学ぶこれからの読書教育」を執筆し、第66回全国学芸サイエンスコンクールにて文部科学大臣賞をいただきました。この論文をもとに、2023年に東京大学に進学した後も「メディア実践としての読書 ―現代における書物の生存戦略への手がかり―」と題した文献調査をもとにした論文を執筆し、読書への没頭と自己形成について研究を深めました。こうした研究と社会実装との両立を評価していただき、2023年2月には教育イノベーションの国際会議 Education 2.0 Conference にて最年少参加者として Young Leadership Awardを受賞しました。

Education 2.0 Conference

僕は読書教育から、一旦距離を置いています。

けれども今、僕は読書教育についてはほとんど何も活動できていませんし、少なくとも当面の間は読書教育に注力することはないと思います。大変ご報告が遅くなってしまい恐れ入りますが、このことを改めて伝えるために、このnoteを書いています。

実は、数ヶ月前に、僕は自分のTwitterのプロフィールから「NPO団体 Dor til Dor 代表」の文字を消しています。

現在のTwitter(X)のプロフィール

この時までは、読書教育の界隈からひっそりとフェードアウトしようと思っていた自分がいました。今から振り返ると、協力してくださっていた皆様・応援してくださっていた皆様のことを考えると、大変不誠実なことをしてしまったと反省しています。また、団体のTwitterアカウントも、半年ほど前まで関連するリツイートなどはしているものの、実質的には1年以上稼働させることができていません。団体のメール宛にいただいていたお問い合わせなどにも回答できていない方も多いです。これらは全て、「活動を終わらせる」という覚悟を決めることができていなかった僕の至らぬ点によるものです。したがって、こちらのnoteを持って、NPO団体Dor til Dorの無期限活動休止の正式なお知らせに代えさせていただきます。多大なるご期待・応援をお寄せいただいた皆様、大変申し訳ございません。なお後述するように、現在も僕は教育業界で活動をしておりますし、将来的にも教育領域を軸として活動してまいりたいと考えておりますので、引き続き温かい目で見守っていただければ幸いです。

活動休止の判断を下した経緯

今回失望させてしまったかもしれない皆様への説明責任を果たすため、改めて活動休止の判断を下した経緯について記しておきます。

※以下は、精力的に活動していた頃からある程度時間が経ったことで、自分の中でも整理がついたものです。今の自分に書ける範囲でなるべく正直に書かせていただきます。

代表である僕の環境の変化によって活動の継続が難しくなった

そもそもフリーペーパーについては、2022年度春頃を最後に新刊を発行できておりません。これは、以下のnoteでも一部言及している通り、メディア発信の限界を感じたことから、より本質的な読書教育のあり方を模索するための研究開発に専念するためです。

けれども、活動をピボットした理由としてこのnoteで書いていない大きなファクターに、大学受験があります。高校2年次の冬に日米トップ大学を併願することを決めたため、時間的にメディア事業を運営するチームのリーダーとして活動することが難しくなってしまい、よりフレキシブルに時間を割いて活動できるよう個人での研究に取り組むことにした、という側面があったことは否めません。大学受験が終わった後も、東京大学への進学のため上京してしまったことから、大阪の印刷会社に協力を仰いで発行していたフリーペーパーの発行を再開することはできませんでした。その後、現在在籍するUCバークレーに進学するために渡米したため、さらに地理的にも距離が開き、物理媒体を用いて活動するのは難しくなってしまいました。

これらはひとえに、僕自身のリーダーシップや組織構築の未熟さに起因するものです。Dor til Dorでも中高の文化祭の部署でも今の52Hzの運営チームでも、僕がリーダーシップを取る場面において常に課題なのが、チームが僕という人間に属人化したものになってしまうことです。特にDor til Dorの場合は、僕という一人の高校生の想いに共感していただいた社会人メンバーを集めてオンラインで活動していたため、うまくコミュニケーションを取りきれず、結局僕の情熱が低下したりキャパを割けなくなったりしてもチームとして自走するような体制を作る、といった段階まで組織を作ることができませんでした。こうした弱点について、今取り組んでいる活動では僕というリーダーが抜けても動く仕組みを作れるように試行錯誤していますが、今からDor til Dorのチームを立て直すのは正直難しいと考えています。

読書教育に心の底からワクワクできなくなってしまった

もちろん上記の組織マネジメントの問題は、僕自身のパッションが高いまま持続されていれば、全く問題ないことです。また、アメリカで読書教育に関わる研究活動を個人として続けるという選択肢も残されています。ただ、何よりも活動休止の主な理由は、代表である僕自身が、読書教育に心の底からワクワクできなくなってしまったことです。もちろん今でもkindleに大量に読めていない本を積読しているほど読書は好きですし、教育領域で法人を共同設立して活動しており、出版文化にも何らかの形で関わりたいとは考えています。けれども、素直に言えば、読書教育にできることに限界を感じてしまったのです。

ざっくり書けば、「効果が見えにくすぎる」ということ。幼少期の読書経験で価値観が培われる、とはさも常識のように言われていますし、(少なくとも部分的には)事実だと思います。けれども、実際にどれくらい子どもたちの将来にとって読書経験が糧になっているのかを正確に追跡・検証することは難しいでしょう。幼少期の大量のインプットの中で本から得るものが占めるのはわずかな割合ですし、その影響が大人になっても定量的に可視化できるわけではありません。そのため、読書教育の意義やインパクを見失ってしまった、というのが本心です。もっとも、教育とその定量的な効果測定をセットにして考えてしまうのは、留学してからアメリカの教育学研究の潮流にいささか飲み込まれすぎているかもしれません。

けれども、定性的に自身の20年間の人生を振り返ってみても、今の自分の意思決定や生き方には、幼少期の読書経験よりも高校時代の課外活動や探究学習での経験の方がより直接的で大きなインパクトを与えているように感じてしまうのです。そんな自覚がある中で、「この本を読んでこう考えるようになりました」というように読書の意義を強調してしまうのは、ある意味で自分の人生に対して嘘をついているように感じてしまうようになったのです。たくさんの読書経験が今の自分の自己形成につながっているのは事実だとしても、フリーペーパーを通じてそうした発信をしてしまっていた時点で、価値観形成の真の要因としてではなく、今の自分の考え方に合った読書体験を結果論的に引き合いに出しているだけなのではないか、と思えてしまうようになりました。こうして僕は、自分がやっていた読書教育の価値を信じきれなくなってしまったのです。

恐らくこうした発信が許されていたのは、とどのつまり「読書=良いもの」という一般的な認知があるからにすぎません。僕が発信しようとしまいと、世の中の親御さんの多くは子どもに本をたくさん読んでほしいと考えていらっしゃるため、僕はあくまでもそうしたニーズにフリーライドしていただけだったのです。また、そうしたニーズがあるからこそ、世の中の読書教育は中学受験などとからめて国語力育成の文脈で紹介されることも多いですし、僕には東大寺学園生という学歴があったため、(本当の効果はわからないにも関わらず)無意識的にそれも利用していたように思います。こうした状態を自覚できてしまった上で、活動を続けるのは不誠実だと考えています。

したがって、これまでのような形で読書教育を続けていくことは、自分自身と社会(そしてその一員である皆様)にとって嘘をつき続けることになると思い、Dor til Dorは活動を無期限休止とするという判断をいたしました。高校1年次の春から3年間以上取り組んできた活動自体は、僕自身も本気でワクワクしてやりがいを感じながら進めていましたが、無自覚なまま皆様にとって不誠実なものになってしまっていました。これまで応援いただいた皆さま、ご協力いただいた皆さまには感謝してもしきれませんし、途中で軌道修正できずにこうした結論に至ってしまったことを大変申し訳なく思っております。

谷津凜勇の現在地と今後について

以下のnoteでも書いている通り、僕は今年3月に仲間と一般社団法人52Hzを立ち上げ、理事として教育プログラム「52Hz Accelerator」を開発・運営を統括しています。これは中高生の探究に海外大生が伴走するプログラムですが、自分自身の高校時代の経験に加えて東大に通っていた間にNPOカタリバなどで探究学習のサポートに携わった経験から、子どもたちの自己形成・自己実現によりダイレクトに手触り感を持って貢献できると確信して立ち上げたものになります。

元々Dor til Dorでは、「子どもたちが読書を通じて自我を育み、1人1人が自分らしく生きる世界を実現する」というビジョンを掲げていました。「読書」という手段からは離れますが、誰もが自分を起点に輝ける世界を実現したい、子どもたちの自己形成・自己実現を促す教育を創りたい、という根本的な想いに変わりはありません。52Hzでもただの「海外大進学コミュニティ」の枠を超えて、この想いを実装している最中です。

52Hzは海外大生と中高生が動かすコミュニティだからこそ、大学を卒業するまでには理事を引退する決意を固めて準備していることもあり、僕は近い将来、新たな教育へのアプローチとして、本気で健全な教育ビジネスを創出したいと考えています。というのも、もともとDor til Dorをはじめ主に非営利の教育団体で経験を積んできた僕ですが、資本主義・新自由主義の権化であるアメリカという国に留学して、少しずつビジネスへの志向性が高まっているのを感じているから。ただし、これはアメリカが資本主義でうまくいっているから、ではありません。むしろ、アメリカは市場原理に支配されており新自由主義の傾向が強すぎるために、格差が広がり、分断が深刻になっています。とはいえ、資本主義から完全に脱却するのは現実的ではないでしょう。

豪華なデパートとホームレスの対比が印象的だった
サンフランシスコのクリスマス

だからこそ、僕は、新時代の資本主義社会を規定するような、健全な教育ビジネスの全く新しいあり方を発明したいと考えています。それは、先日公開したnoteでも論じている「ロマン」と「そろばん」が両立した事業なはず。そして、それが実現しうるのは、アメリカではなく日本ではないか、とも直感的に確信しています。

特にいま僕がこれから教育領域で事業開発する上で、一つの鍵になると考えているのが、子どもたちが何かに「没頭」している状態です。高校3年次に子ども文庫の研究をしていた際には、子ども文庫がどのようにして子どもたちを物語に没頭できるよう促しているのか、という観点で分析をしていました。今は「物語」からは離れましたが、Acceleratorプログラムでも「夢中」を一つの大切にしたい価値観の軸として採用しています。学問的には、心理学者ミハイ・チクセントミハイによって「フロー理論」などが提唱されたりもしていますが、この「没頭」を通じて自己形成・自己実現を促す、というのが立ち上げる事業のテーマになりそうです。

結び

長々と書いてきてしまいましたが、こうして僕は、読書教育の活動から離れ、新たな挑戦に向かって走りはじめています。その中で実現したいことはDor til Dorの頃から本質的には変わっていませんが、手段やアプローチは日々進化しております。常に目の前にあるワクワクを全力で追究してきた人間ですから、今後ももしかするとやりたいことは変わるかもしれません。それでも、これまで僕のことを応援してくださっていた皆さんにつきましては、引き続き温かく見守っていただければ幸いです。また、まだこれからも僕にご期待をお寄せくださる皆さんへは、嬉しいご報告ができるよう引き続き精進してまいりますので、よろしくお願いします。


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