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2002年からの武術エッセイ

20年前、私が手にした武術という魔法の杖は、幻想にすぎなかった。
ただ、日々の生活の中で弱い自分が許せなかった。
そこで作り出したのが武術という魔法の杖。
現実はいかに厳しく、自分はいかに弱くても、その杖さえ持っていればたちまち変身できるのだと思っていた。

普段、会社で上司に怒鳴られ、顧客に叱られ、取引先にバカにされ、うだつがあがらない自分でも、道場に行って稽古したら、気分が晴れて満足した。
だれも知らない特別な技を習っているという優越感。
本気で自分が怒ったら、どんな奴だってやっつけることができるんだという、根拠のない自信・・・。

武術の世界にいる自分と会社で働いている自分と、そのときは完全に分離していた。

しかし、今、武術は私という人間が生きていくうえでの杖となっている。会社で働いているときも、道場で稽古しているときも、趣味の釣りを楽しんでいるときも、私は私として、私の人生を歩んでいて、武術という杖の助けを借りている。
そして、杖は杖でしかなく、道ではない。
武術は武術でしかなく、武道などというあらかじめ作り上げられた世界を示すのではない。

ただの杖、杖であればよいのです。
道は武道ではなく、自分の生きる自分の人生そのものが道なのであり、武道などという幻想の世界を作り出してはいけない。
武術は、ただの杖、それだけに留めておけばいいのです。
2004年6月記す。

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