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二項対立

「「自分たちの着たい服が売ってないから」
九十年代後半、そんな理由でモデル達がブランドを立ち上げて行った。その流れで出来上がったストリート系カジュアルアイテムの希少性の所在はややふわっとしたものだったが、あの頃から「おしゃれなあの人が手掛けた服=イケてる&安心」的な価値観が浸透し、現在のアパレル業界での巨大なインフルエンサーマーケットとして成長したのだろうと一人考察。また同時に注目したいのは、専門家と非専門家の垣根が低くなって行ったということだ。
もう何年も前からだがモデル、タレント、ユーチューバーという所謂インフルエンサーがブランドディレクターとして前面で大活躍なのだ。彼らがどこまで企画に入り込んでいるのかはさまざまだろうが、日々検討会を重ね、指示書を書きまくり、メーカーさんと商談し、上がってくるサンプルや先上げ商品の検品をしていた自身のデザイナー時代を振り返ると、「なんだかなぁ、この業界」と思ってしまうのは私だけではないのでは?「要はディレクターの知名度ですか?(はいッ、そうですかッ!)」みたいにやさぐれてしまっているOEM系デザイナーさんお便り下さい、みたいな心境にもなったりする。もちろんインフルエンサーが手掛けるブランドのクオリティが低いとは一概に言えないけれど、売れ行きはブランディング、プロモーションに大いに影響される時代となった。伝統工芸や手仕事の匠が重んじられる一方、非専門家、別の言い方をすれば、専門的な教育や経験のないインフルエンサーの活躍も目まぐるしい。ほんっと、SNSって革命的!
「専門家VS非専門家」、そんな二項対立をかの哲学者デリダは脱構築した訳だが、私もデザイナーVSインフルエンサーのモヤモヤ対立を、「みんな最初は素人/OJT/好きこそ物の上手なれ」と唱えることで脱構築して行きたいと思う。いずれにせよ元アイドルの政治家よりは随分と専門性が高い気もするし。
ここでインフルエンサーブランド紹介など出来ればこのコラムのバリューも上がりそうなものだが、私の部屋を見渡したところ、前述の個人的因縁が反映しているのか、そういったものが一切見当たらない…。よって、インフルエンサーマーケット以外のトレンドについて少し。私は業務の一環として、糸商さんなどに素材のトレンド提案なるものを行っているのだが、今回各所でキャッチーに繰り返したのが、「ジェンダーレス」「シーズンレス」「シーンレス」「エイジレス」(特に目新しくもないね)。ダイバーシティの波と共にあらゆるボーダーが消滅し、何時でも何処でも誰でも着れる素材・洋服がトレンドインしている。(ちなみに私のいまだ果たせぬ夢は「好きな時に好きな所で好きなことをする生活」です)中でもジェンダーレスが強力で、「ジェンダーを問わずに着用出来る」 「2倍売れる可能性がある」訳で、そういうアイテムを展開するブランドは売り上げが伸びているらしい。これは単純に納得。なお以前から使われていた「ユニセックス」は、主にファッションで使われる語だが、セックス「生物学的性別」を基準に性を問わないというニュアンスであり、ジェンダー「社会的属性に関する性別」を区別しないというのとは少し意味合いが異なる(あまり明言するとこれそこ専門家に指摘されそうだ)。
こんなふうに世の中は色んなボーダーが解除される傾向にあるものの、国境が大きな例外として想起される。二項対立構造から脱しない人々によって再びあらわとなった鉄のカーテンにより、東西が分断され血が流されている。世界から戦争が永久に無くなることを希求します。



レースも女子だけのものではなくなったようですね。

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