約束の地−たった1分で読める1分小説−
カイトは一流のスイマーだった。
物心ついた頃から水泳を嗜み、水泳一筋の人生だった。
ただそれはカイトだけではない。この世界にいる者は、全員水泳の鍛錬を強制させられた。生きることは泳ぐことだった。
「いよいよだな」
広大な海を見つめながら、マトフが意欲満々で肩を回した。マトフはカイトの親友だ。
この海の果てに『約束の地』と呼ばれる場所がある。全世界の人間が、泳いでその地を目指すのだ。
ただそこにたどり着く確率は、二億分の一だった……。
始まりの鐘が鳴り、無数の人間がいっせいに泳ぎだした。
過酷な旅だった。泳げども泳げども約束の地は見えない。みんな次々と脱落していった。
残るはカイトとマトフのみだった。
荒波が二人を襲い、マトフが見えなくなる。
「マトフ、必ず二人で約束の地にたどり着くぞ!」
カイトが渾身の力で叫んだ。
「おめでとうございます。男の子です」
病院で、看護師が若い男に向けて言った。男は父親になったのだ。
そう、カイトは精子で、約束の地とは卵子のことだった。カイトは見事受精を果たした。
父親が病室に入ると、母親の隣に可愛らしい赤ん坊がいた。ただ喜ぶ前に、父親の顔に驚きが走った。
「あれっ、二人いる」
母親が微笑んだ。
「そう、双子だったの」
「どうりでお腹が大きかったわけだ」
父親がにこにこと二人を眺め、ポンと手を叩いた。
「今この子達の名前を思いついた。
カイトとマトフだ」
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