熱心な先生ーたった1分で読める1分小説ー
「田中、学校に来ないか?」
「……」
扉越しに先生の声が聞こえたが、僕は口を閉ざしていた。
僕は、学校に行っていなかった。
いじめが理由だが、それを親にも先生にも言わなかった。この一ヶ月間毎日のように先生は来てくれるが、僕は会うことを拒否した。
扉一枚を挟んで、先生は一方的に話し続ける。昨日あんなことがあってな、こんなアニメを見てな、などのたわいもない話。
そして、「また明日もくるよ」と寂しげな声を漏らして帰っていく。
無視するたびに、心がじくじくと痛む。
あんなに熱心な先生いないよな、そろそろ学校に行こうかな、そう思っていた矢先、友達から電話がかかってきた。
「……今日先生の葬式だけど行かないか?」
僕は耳を疑った。
「葬式? どういうことだ?」
「聞いてないのか。先生、おととい交通事故にあって亡くなったんだ」
「おととい!? でも昨日先生うちに来た……」
その言葉の途中で、僕はスマホを落とした。廊下から、ズルッ、ズルッと足を引きずるような音が聞こえてくる。
その足音が止まると、ビチャッと何か肉塊のようなものが落ちる音がした。扉の下から何かが漏れ伝ってきた。
それは、血だった……。
ひっと悲鳴を上げかけて、必死で声を飲み込む。
あんな熱心な先生、いないよな……。
自分の言葉が、頭の中で鳴り響く。
扉の向こうから不気味な声がした。
「田中、学校に来ないか?」
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