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人材開発は行動開発:成果に繋がる行動を促すための方法と注意点を紹介

目次


「人材開発って何?研修を企画すること?」
「人材開発を担当することになったけど、どう進めればよいか分からない」

こうした人材開発に関する疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか。

近年、人的資本開示の必要性や、人材開発助成金などの影響を受け、人材開発に力を入れる企業が増えてきています。

人材開発の本質は、成果に繋がる行動を促すことです。つまり、社員が目標達成に必要な行動を自発的に取れるように育成することが、人材開発の目的といえます。

そこで本記事では「成果につながる人材開発とは何か」に焦点を当て、人材開発の定義や、効果的に人材開発をするための具体的な方法、注意点を紹介します。

そもそも人材開発とは

人材開発とは、従業員の能力やスキルを向上させて、組織としての目標を達成するための取り組みを指します。

人材開発とは行動開発である

人材開発とは行動開発であるといえます。なぜなら、経営者が常に期待する「成果」は、各従業員の行動によってのみ生まれるためです。

ただし、成果を出すための行動は、闇雲に行えば良いというものではありません。まずは、事業戦略に基づいて成果を明確にする必要があります。次にその成果を達成するために必要な行動を分析します。そして、行動を促すために何が足りないのか、あるいは行動を阻害しているものは何かを特定した上で、人材開発施策を計画・実行することが重要です。

本記事では、個別具体の行動を開発するための考え方について紹介しています。一方で人事としては、全体最適な視点からの検討も欠かせません。そのため、こちらの記事とあわせてご覧ください。

人材開発は行動開発:理解すべき前提と行動に影響を与える要素を紹介

開発すべき行動を特定するための方法3ステップ

開発すべき行動を特定するための3ステップは、次の通りです。

  1. 成果を明確にする

  2. 成果を分解する

  3. 成果につながる行動を特定する

以下では、各ステップの詳細を解説します。

ステップ1.成果を明確にする

成果とは、ある目的に向かって取り組んで得られる結果のことです。まずは事業戦略に基づいて期待されている成果を明確にしましょう。その際には下記の通り、「役割」と「目標」の定義をあわせて整理しておくと、成果を明確にするとはどういうことか、より理解しやすくなります。

役割:仕事(影響)の範囲
個人やチームが組織内で担う責任や仕事の影響範囲を表します。つまり、役割は、取り組むべき業務領域や貢献対象(売上、利益、課題等)に対し、どのような責任を持つかを示したものです。

成果:求められる状態
ある目的に向かって取り組んで得られる結果を表します。成果は、自組織や自分の働きかけによって、外部にいる顧客や他者がどの様な状態になってほしいのかで定義できると望ましいです。

目標:達成すべき具体的な数値目標
特定の期間内に達成するべき成果を、定量的または定性的な数値目標にしたものです。目標は自組織や自分の仕事の達成を測るものです。測定可能な数値で定義できると望ましいです。


ステップ2.成果を分解する

成果の規模が大きい場合、いきなり行動に移すのは困難です。成果と行動の間に大きなギャップがあると感じた場合は、下記のように成果を複数の中間成果に分解することをおすすめします。

成果を中間成果へ分解

なお、複数の中間成果に分解できたら、「それぞれの中間成果を達成できれば、きちんと最終成果になるのか」を見直すと良いでしょう。


成果を考える事の大切さ
ここで、成果を考える大切さについて解説します。

例えば、清掃員の仕事は、「オフィスを掃除すること」という行為(=To Do)ではなく、「清潔で快適なオフィスを提供すること」という状態・結果(=To Be)が求められます。このように、仕事には行為(=To Do)と状態・結果(=To Be)の違いがあり、どちらを自分の仕事と定義しているかによって仕事に対する認識が変わります。

もし上司から「オフィスを掃除してくれ」と言われた場合、アクションに焦点が当たり、「一生懸命やれば報われるはずだ」と自分本位の甘い評価になりがちです。一方で「オフィスを清潔で快適な状態にしてほしい」と言われると、状態・結果(=To Be)に目が向くようになります。そうすると、結果に対する外部評価を意識するようになり、自己本位の思考を避けることができます。

自分の仕事がどの様な成果を期待されているのかを理解することで、自分の役割や目標が明確になり、自己評価も客観的になるでしょう。結果的に、単なる行為(=To Do)に満足することなく、結果(=To Be)にコミットできるようになるのです。


ステップ3.成果につながる行動を特定する

目指す成果を特定したら、次にその成果を生み出すための行動を特定します。成果は行動によってしか生まれないため、人材開発において行動開発は非常に重要です。

しかし、成果と行動の関係は必ずしもシンプルではありません。成果を生み出すためには、複数の行動が複雑に絡み合うことが多いのです。そのため、成果につながる行動を特定するには、どのようなプロセスを通じて成果が生まれるのかを整理する必要があります。

例えば、「新規顧客を獲得する」という成果を生み出すためには、以下のような行動が必要です。

  • 新規顧客との初回商談数を増やす

  • 商談で顧客のニーズを聞き出す

  • 顧客のニーズに沿った提案書を作成する

  • 顧客から合意を得る

  • 提案した商品を約束どおりに納品する

行動をより深く分析したい場合は、それぞれのプロセスをさらに分解することができます。例えば、「初回商談数を増やす」という行動はさらに以下のように分解できます。

  • 過去商談先へのテレアポ

  • セミナーを開催して見込み客を増やす

  • web広告を用いて見込み客を増やす

行動をさらに分解

最終成果に向かって「まず何をすればいいのか」まで落とし込めれば、分解は終了です。イメージとしては、成果に向けた具体的な行動(≒タスク)をOutlookやGoogleカレンダー等の予定表(1日のスケジュール)に入れられるような状態です。

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人材開発に不可欠な行動変容を阻む背景・要因に注意

成果につながる行動を特定しても、実際に行動に移せない場合があります。ここでは、その背景と要因と解決策について詳しく解説します。

行動変容を阻む背景(人間は変化を嫌う生き物)

人間は生物学的に、変化を避け、現状を維持しようとする性質を持ちます。これは、ホメオスタシスと呼ばれる機能によるものです。ホメオスタシスとは、体温や血糖値などを一定に保ち、体内環境を安定させる機能です。この機能は生存に不可欠ですが、変化を拒む性質も生み出します。

他にも、例えば以下の理由から、人は変化を避けようとする傾向があります。

  • 未知への不安: 新しい行動には、未知の要素が多く、潜在的なリスクや失敗への不安が伴います。

  • 慣れ親しんだ環境への愛着: 慣れ親しんだ環境は、安心感や安定感を与えてくれます。変化によって、この安心感や安定感が失われることを恐れます。

  • 努力や時間が必要:新しい行動を習慣化するまでには、努力や時間が必要です。時間や労力を惜しまずに取り組むことが、必ずしも容易ではない場合があります。

行動が変わらない要因

行動が変わらない要因を考えるために、2つの考え方をご紹介します。

  • 行動変容ステージモデル(新しい行動を習慣化するまでの5ステップ)

  • 免疫マップ(無意識に行動を阻害している要因を特定する)

行動変容ステージモデル(新しい行動を習慣化するまでの5ステップ)

行動変容ステージモデルとは、人が新しい行動を習慣化するまでの過程を5つの段階に分けたモデルです。具体的には「無関心期」「関心期」「準備期」「実行期」「維持期」の5ステージで構成されています。

各ステージで、人の行動や心理状態、必要な支援などが異なっており、それぞれの特徴を把握することで、より効果的な働きかけが可能になります。

なお、行動変容ステージモデルは、単純に右方向へ行動変容が進むわけではなく、ステージを行ったり来たりする状態を経ながら変化していきます。
自社の社員はどのステージに多いのかを把握し、フェーズに合わせた施策を行うことが重要です。

行動変容ステージモデル

■各ステージにおける具体的な支援方法

1.無関心期

目標:問題意識を高め、行動変容への関心を喚起する

【支援方法】

  • 情報提供: 問題現状や課題に関する情報を分かりやすく伝える

  • 啓蒙活動: 行動変容の重要性やメリットを訴求する

  • 事例紹介: 成功事例を紹介することで、行動変容への意欲を高める


2.関心期

目標:行動変容への意欲を高め、具体的な行動に移せるようにする

【支援方法】

  • メリット説明: 行動変容のメリットや効果を具体的に説明する

  • 体験機会提供: 研修やワークショップなどを開催し、実際に体験できる機会を提供する

  • ロールモデル紹介: 行動変容に成功した人の話を聞くことで、意欲を高める

【有効なフレームワーク】

  • ペインプレジャーマトリックス:変わることのメリットを体系的に整理する

  • 行動分析: 行動変容に必要な知識、スキル、マインドを分析し、具体的な行動目標を設定する


3.準備期

目標:行動変容計画を策定し、実行に向けて準備を整える

【支援方法】

  • 目標設定: SMARTな目標設定を支援する

  • 行動計画策定:具体的な行動計画を策定する

  • リソース提供: 行動変容に必要なリソースを提供する

【有効なフレームワーク】

  • SMART: Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(関連性のある)、Time-bound(期限のある)な目標設定


4.実行期

目標:行動変容を継続し、習慣化していく

【支援方法】

  • モチベーション維持: 定期的なコミュニケーションやフィードバックでモチベーションを維持する

  • サポート: 困ったときや壁にぶつかったときに支援する

  • 進捗管理: 行動変容の進捗状況を管理する

【有効なフレームワーク】

  • モチベーション理論: 人間の動機付けに関する理論を理解し、モチベーション維持に役立てる

  • 行動記録: 行動変容の過程を記録することで、自覚を高め、モチベーションを維持する


5.維持期

目標:行動変容を維持する

【支援方法】

  • フォローアップ: 定期的なフォローアップを行い、継続を支援する

  • リマインド: 行動変容の重要性を定期的にリマインドする

  • 環境整備: 行動変容を維持しやすい環境を整備する



免疫マップ(無意識に行動を阻害している要因を特定する)

上記の様なアプローチでも行動が変わらない場合、または、変わらないのではないかと不安な場合には、免疫マップを活用したアプローチが有効です。

免疫マップとは、組織や個人の変革を阻む要因を分析するためのフレームワークです。ハーバード大学教育大学院教授のロバート・キーガン氏が開発しました。

免疫マップの核となる考え方は、「人は変化を嫌う生き物」ということです。前述した通り、人は、ホメオスタシスと呼ばれる機能によって、体内環境を安定させようとします。この機能は生存に不可欠ですが、変化を拒む性質も生み出します。

「変わりたい」と本当に思っていても、同時に「変われない」もしくは「変わりたくない」という心理が存在することがあります。免疫マップは、「変化」を望みながらも、無意識に自己防衛しようとする人間の複雑な心理を可視化し、変革を阻む要因を分析するための有効なフレームワークです。

免疫マップは、以下の4つの要素で構成されています。

免疫マップ

下記は、免疫マップの記入例です。

免疫マップ(記入例)

免疫マップは自己変革の鍵になる重要な概念です。組織の変化に関しても、組織に属する人間一人ひとりの自己変革から始まります。

以上のような観点を踏まえ、行動変容を成功させるためには、これらの要因を理解しながら、適切な対策を講じることが重要です。

まとめ

人材開発ひいては組織としての成長に欠かせない「行動開発を促すための方法論」を紹介しました。

成果を上げるためには行動が必要であり、「人材を開発する」とは結局「行動を開発する」ことであるといえます。また、行動には成果につながるものとそうでないものがあります。人材開発を考える方は、「成果を上げるためにはどの行動を開発することが有効か」「どのように開発するのが効果的か」の2つを明確にできる必要があります。

さらに、行動は組織文化や評価基準などの個人を取り巻く環境にも影響を受けるため、行動開発のためには、研修の企画だけでなく、何によって行動が促進されるのか全体を視野に入れた総合的な施策の企画も必要です。この点については、別記事にてご紹介いたします。
人材開発は行動開発:理解すべき前提と行動に影響を与える要素を紹介

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