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【ショートエッセイ】居慣れた場所

通勤歴は30年を超えた。
そのほとんどが電車に揺られていた。
毎日同じ位置の同じ車両に乗って同じ風景を見る。
違いと言えば晴れてるか、雨が降ってるくらいだ。

この毎日のイベントは回避できない、どうしようもないことだ。
特に満員電車は耐え難い。
押して押される、それも変な態勢のまま。

そんな単調な時間の中にいつも浸っているから、ちょっとしたことに気が付いてしまう。
例えば・・・

隣に座った人のイヤホンから漏れて来る音楽が、ぼくの好きな曲だとか。
少年ジャンプの表紙に、まだワンピースのルフィが載っているとか。
最近、ニューバランスのスニーカーを履いている人が増えたとか。
いつの間にか◯◯駅前に魅力的な居酒屋ができたとか。
その日に乗った電車の窓がすごく汚れていたとか。

気が付いたところで何の役にも立たない情報だけど、なぜか気が付いてしまう。
たぶん電車に乗っていない時は、確実に見過ごすだろう。

毎日同じ情景を見てる上に、暇だから変なことに執着してしまうからだろう。

ふと気が付いたことがある。
通勤電車の中の理論で考えれば、家の中でも同じことなんじゃないか?
何かちょっとした変化はないだろうか。
そう言えば・・・。

花瓶に刺している花が少し萎れてるとか。
テレビの画面の角度が少し変わっているとか。
台所の冷蔵庫の音が少し大きくなったとか。
近所から聞きなれない子供の声がするとか。
どれもこれもどうでもいい情報だ。

ただ一つ言えることは、電車の中も家の中も、どちらも居慣れた場所ってことだ。



小説を読んでいただきありがとうございます。鈴々堂プロジェクトに興味を持ってサポートいただけましたらうれしいです。夫婦で夢をかなえる一歩にしたいです。よろしくお願いします。