【連続note小説】日向食堂 小日向真司68歳
このところ真司は腰痛に悩まされていた。
長年の立ち仕事で腰に負担が溜まってきたようだ。
それでも休もうとはしない。
「お父さん、たまには吾郎くんにお店を任せてしばらく休んでみたら」
優子がたまに店に顔を出してくれるが、その度に真司が腰に手を当てている姿を見かけた。
「そうしたいけど、おれがいないとお客さんががっかりするだろ」
優子と幸次は、真司を無理やり休ませて温泉に連れていくことにした。
吾郎は店番を快く引き受けてくれた。
優子と幸次はお金を出し合って、近場の温泉宿を予約してくれた。
家族旅行は何年振りだろうか。
ここにあおいがいないことが心残りだった。
銭湯には散々浸かってきたが、やはり温泉は何と言うか体の芯から温まる。
「温泉ってのはいいなぁ、母さん」
真司は一人で呟いていた。
若い頃、母と約束して果たせなかった夢があった。
まさか自分が逆の立場で連れていってもらえるとは思ってもみなかった。
こんなに体に良いのに、なぜ借金してでも連れて行かなかったのか・・・。
真司は後悔の念に駆られた。
しかし前を向いて生きると決めた。
だから心の中で手を合わせて、真司はのぼせるまで温泉を堪能した。
▼関連エピソードはこちら
<続く…>
<前回のお話はこちら>
▼1話からまとめたマガジンはこちらから▼
途中からでもすぐに入り込めます!
小説を読んでいただきありがとうございます。鈴々堂プロジェクトに興味を持ってサポートいただけましたらうれしいです。夫婦で夢をかなえる一歩にしたいです。よろしくお願いします。