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【ショートストーリー】地球が終わるときに

突然のニュースだった。
あと数時間で巨大彗星が地球に衝突する。
その時、私は出張先にいた。

人々は大混乱に陥って、交通機関の全てが麻痺してしまっていた。
車は大渋滞を呼び、暴動により鉄道は走るに走れない。
慌てたところで、地球自体が消滅するのにどこへ逃げようと言うのだ。

ここから歩いて帰られる距離ではない。
私はこのまま家族に会えずに、地球最後の時を迎えるのかと諦めていた。

携帯電話で何度も自宅に掛けてみたが全くつながらない。
「もうここまでか」
私は会社の後輩に嘆くように言った。
「先輩といっしょに死ねるのも何かの縁ですかね」
未婚の後輩は案外とさばさばしていた。

私は無駄を承知で何度も携帯電話の自宅の番号を押してみた。
何時間も粘った末に、奇跡的に電話がつながった。
「ニュース、聞いたか」
私は気の利いた言葉が見つからなかった。
「聞いたよ」
妻は明るく答えた。
「家に帰られそうにないんだ」
私は声を絞り出すように言った。

静寂がしばらく続いた後に妻が言った
「生まれ変わったら、また会いましょうね」

そして地球は真っ白な光に包まれていった。



小説を読んでいただきありがとうございます。鈴々堂プロジェクトに興味を持ってサポートいただけましたらうれしいです。夫婦で夢をかなえる一歩にしたいです。よろしくお願いします。