クィアベイティングについての猫黒歴史さんの記事を読んで。

以下の記事を読みました。コメントを書こうと思ってwordでまとめていたのですが、長文になってしまったので引用記事にすることにしました。

以下、猫黒歴史さんへの感想と意見

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 一連の記事(『BL/百合営業はクィアベイティングなのかをただのVTuberオタクが考える記事』、『クィア(LGBTQ+)当事者を推しに持ち、BLというコンテンツを愛してきたオタクがクィアベイティングと諸々を考えて言語化してみる記事(二次創作編)』、『"腐売り・BL/百合営業"と"てぇてぇ"と"ブロマンス"と"クィアベイティング"は紙一重だって話(解説編)』)読みました。
 
丁寧な整理が為されており、また、消費者としての思いが素直に語られていて参考になるとともに、楽しんで読めました。
 
私は消費者という観点からは、日本アイドル、k-pop、アニメ、映画、漫画、ドラマなど(国内外問わず)を通して関係性消費をしてきたように思います。それと、大学時代でジェンダー論・フェミニズムや批評に触れたのがきっかけで、「BL/百合営業」や性的マイノリティの登場する映画等と「クィアベイティング」の関係については考えることも多く、猫黒さんと同じような問題意識を持っていたように思います。
 
 傍論から始めますと、日本での「百合」消費については、2chが2000年代初頭に隆盛を誇る中、当時人気を集めた「モーニング娘。」に関する通称「狼」という板が2ch内で3本の指に入るようなアクセス数を誇っていましたが、そのような中で、メンバーを登場させる二次創作、ファンフィクションを小説形式で創作する文化があり、その作品数は驚くべきものがあり、かなりの長編も多かったように記憶します(私は、後追いなので、正確な検証は難しいですが。参考: http://hime4438.fc2web.com/link.html )。必ずしも百合的な表象だけではありませんでしたが、個人的には、「娘。小説」は忘れられてしまった文化・流れだけれども、量的なインパクトで考えると、日本でのネット勃興期のサブカルチャー史に記録しておくべきであったような重要性を持っていたと思っています。
 
 Vtuberについては私は触れていませんが、たしかに、創作物と非創作物の境界線として、考察すると面白いかもしれません。
 
 それから、どの程度正確かは分かりませんが、実在人物の(百合。BL的)関係性消費というのは、声優オタク界隈で割と早い時期に生じていた気がします。いわゆる百合営業、BL営業という言葉を私が初めて聞いたのもその文脈です。
 
 また、黒猫さんの記事内で触れられていないものでいうと、最近、タイでGLが流行しているようですね。『Gap: The Series』というドラマシリーズ(youtubeで視聴可能)をきっかけにかなりの盛り上がりを見せているようで。
 
 それから、百合的BL的消費、あるいは性的マイノリティを扱う作品の創作やそれら消費が為される背景には「異性愛中心主義・恋愛至上主義・ヘトロセクシズム・ロマンティックラブイデオロギー」への忌避というものが多いと思っています。「異性愛の称揚にはもううんざり」みたいな感覚です。
 
 さて、クィアベイティングの問題についてですが、結論から言えば、現在、私はクィアベイティング自体を抑も否定的に評価すべきでない、できないと思い至っています。
 何故ならば、異性愛関係についても、同じように、いや遥かに多く、そして歴史的にも長い間、商品化され、パッケージングされーーーー戯画的にいえば暴力的に、そして必ずしも倫理的ではない形でーーーー、消費され続けているからです。
 言うまでもなく、ほとんどの創作作品での性愛表象は異性愛関係として描かれてきており、消費者はーーーー古くは印刷技術発展後の恋愛小説から昨今の恋愛映画に至るまでーーーー動物的に好き勝手に、政治的配慮などなく、その異性愛的関係性を消費しています。
 
 恋愛映画の役者達に、作品内の関係性が投射されることも少なくありません。撮影現場のオフショットを見て、異性愛的関係性に「萌える」ファン達と、BL・百合好きな消費者とは、ある面では全く同じ反倫理性を持っているというべきだと思います。
 
 したがって、異性愛関係を商品化して売る生産者と同性愛関係を商品化して売る生産者、そしてそれに対応する消費者。彼らはある意味でどちらも同質の反倫理性を有するのであって、同性愛関係の消費だけを非難することはできないのではないかと思っています。
 
 両者に差があるとすれば、同性愛というものの被差別の歴史の存在というものですが、これも、同性愛関係消費を特別視する理由にはならないのではないでしょうか。関係性消費の文脈においては、同性愛というのものが(身勝手だが)肯定的に捉えられ、差別意識から切り離されている以上、差別の存在と消費の態様の反倫理性は結びつかないような気がします(同性愛者を差別してその加虐それ自体の快感をエンタメ化しているような場合は別ですが、「BL」とか「百合」とか言う場合、そのような形ではなく、むしろ(悪としての)差別を乗り越えていく過程がエンタメ化・商品化されている場合が多いでしょう)。
 
 まあ、要するに異性愛関係の消費も同性愛関係の消費も、どちらも動物的で身勝手な消費で反倫理性を有するのであって、同性愛関係の消費を特別視する根拠は薄弱なのではないかと思っています。
 
 もっとも、特別視すべきでないといっても、その裏面として、猫黒さんも指摘するように「BL/百合営業」と名指すことには、多少なりとも注意が必要かと思います。
 同性愛的関係を虚妄だと見做すことは異性愛中心主義的な視点ともいえます。実在のアイドルや俳優が同性愛者である確率は、統計的に見て少ないように一見思えますが(国によって異なりますが、いずれも人口比数%とわずか)、確率的に低いだけで単にその人は同性愛者であるかもしれないし、さらに、例えば、機会的同性愛という概念もあります。これは閉ざされた特殊な環境において、本来異性愛的素質をもつ人が同性愛に時限的に移行する現象(女子校における擬似性愛関係を想起せよ)のことですが、まさに、「恋愛禁止」的枷の中で活動するアイドルについては、現象としての機会的同性愛が生じる条件が揃っているようにも思えます。よって、一般社会よりも同性愛的関係が生じる可能性は高いといえるかもしれません。
 さらに、「同性愛:異性愛」と二元的に捉えることは、20世紀初頭からの流れであるとの指摘もあります。特に女性同士の関係については19世紀には、「ロマンティックな友情」(リリアン・フェダマン)と称されるように、友人関係と性愛関係の境界が曖昧な形で営まれることは広く見られました(女性学年報 〈第22号(2001)〉 渡辺和子追悼集)。つまり「レズビアン」として特別視されることもなかったわけです。それが、20世紀に入り、女性同士の関係が反社会的・反道徳的・性的倒錯と見做される傾向が強まり、ストレートとレズビアンに分化されてきた、と。アドリエンヌ・リッチが女性同士の親密な関係性を「レズビアン連続体」(『血、パン、詩。』)と表現したことを想起すれば、寧ろ同性愛と異性愛を連続的に捉えるべきで、同性愛的関係の表象を異性愛的関係と切り離し特別視すること自体を見直すべきかもしれません。
 また、同性愛的な演出、脚色には、営利的目的以外のものもあるでしょう。自らを同性愛的関係性の中に置くことにより、内的な陶酔(特別感!)を得たり、あるいは外的な(他者からの)視線・注目を集めて満足感を得ることもあるでしょう。そういったことは、芸能の世界から離れた一般の社会でも行われていると思います(経験的にも、同性間での性愛的空気の演出をしたことがある、あるいは他者がしているのを見たことがある人は少なくないのではなかろうか)。
 
 その上で、消費世界では、現象としては「BL/百合」的関係が、脚色・演出されたり、欺罔されたりすることも少なからずあるでしょう。しかし、その行為自体には非難可能性は低いように思うのです。繰り返しますが現代資本主義社会で人格、関係性の商品化などというものはあらゆる場面で生じており(例:異性愛を描く大衆映画でイケメン俳優、人気女優を集客目的でキャスティングしているものを想起せよ)、同性愛関係の商品化のみを特別視する理由は薄弱と思えてなりません。簡単にいえば営利目的で何が悪い、ということです。アウティングや差別を誘引しない形での商品化ならば、否定されるべきでないだろうと思います。そもそもクィアベイティングを大枠で非難するのは、「営利目的」というものに対する忌避感というある種の清教徒的潔癖主義的思考が背景にあるのだと思いますが(感覚的には理解できます)、しかしそもそも、その他の殆どのメディア空間に於いて我々は、営利目的の商品化の大きな流れにあるのです。我々は感情のフックに引っかかり続けて生きていることを直視すれば、クィアベイティングなるものを特別視して非難するのは理論的に正しくないように思います。
 
 とかとか、最近はこういうふうに考えています。長々と書いてしまいましたが、考えを整理するいい機会にもなりました。特にVtuberの界隈にはあまり触れていないので、また考えてみたいです。


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以上、感想終わり。


↓過去に書いたもので、関連するもの。


(20240209追記)
猫黒さんから反応をいただいた。
『私が「クィアベイティング」を使ってコンテンツ批判をするわけ』
また、続編としての新たな記事を書き、一部、猫黒さんの記事への応答も行なった。
→『クィアベイティングについての猫黒歴史さんの記事を読んで。ーその2


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