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自由なコーヒーと空間を味わう。体験型カフェ「COMMUNE⁶」

行きつけのお店にしたくなるコーヒー専門店とは、どのようなお店だろうか。上質なコーヒーが飲めることはもちろんだが、それ以上にそのお店にしかない空間や流れる時間も重要なポイントではないか。

熊本市東区戸島にある「COMMUNE⁶」は、毎週土曜日のみオープンするコーヒー専門店だ。ここでは単にコーヒーを飲むだけにとどまらず、プラスαの体験も楽しめる。バリスタ未経験でもコーヒーの抽出を学べたり、お店の焙煎機を使って焙煎に挑戦できたりなど、様々な体験型サービスが提供されている。そして、訪れる人々がコーヒーにまつわる体験を共有することで、自然とコミュニティ感が生まれている。

熊本市中心部から少し離れた場所にあるのにもかかわらず、お客が絶えないのは「抜群に居心地が良いから」。ついつい長居したくなる空間はどのようにして創られたのか?そのヒントを探るべく、「チャカ」という愛称で呼ばれる店主に取材した。


「飲む人の記憶に残るコーヒー」を提供

店の扉を開くと、カウンター越しに穏やかな笑顔のチャカさんが迎えてくれた。店内は、焙煎されたコーヒー豆の香ばしい匂いで満たされている。キッチンの向かいにあるカウンター席に座ると、チャカさんがコーヒーのメニューを見せながら、それぞれのコーヒーの特徴を詳しく説明してくれた。

「当店では、コモディティー、プレミアム、スペシャルティ、トップオブトップの4つのグレードのブラックコーヒーを用意しています。ブラックコーヒーが苦手な方には、エスプレッソやフラットホワイトなど、水とコーヒー以外の食材を使ったコーヒーもありますよ」

オーダーしたスペシャルティのインドネシアンコーヒーは、豊かなアロマが印象的で、コクと酸味のバランスがとれた味わい。驚いたのは冷めても酸味が増すことなく、むしろ時間が経つにつれてまろやかさが増していたことだ。じっくりコーヒーを味わいながら、慌ただしい日常を忘れ、ゆったりとした空間に浸った。

インドネシアンコーヒー。コーヒー収穫後に「発酵」プロセスによって複雑な風味を生み出す。

チャカさんは、コーヒーの先進国であるオーストラリアでトップクラスのバリスタ技術を学んだ実力派だ。Brewers Cupというコーヒー抽出競技大会のオーストラリアンチャンピオンが経営するカフェで働いていた経験もある。

チャカさんはコーヒーのオーダーを受けるとき、必ずお客さんに「普段はどんなコーヒーを飲んでいるのですか?」と尋ねる。特に初来店客の場合、その方の発言や仕草から「どんなコーヒーを求めているのか」を感じ取ることを意識しているそうだ。それによって抽出の一滴を垂らす・垂らさないを決めたり、お湯の差し方、量、スピードを微調整したりと細やかに淹れ方を変える。

キッチンの前にあるカウンターは常連さんの特等席。チャカさんと話をしたり、
プロのコーヒードリップを眺めたりしながらくつろげるスペースとなっている。

「人はいつ死ぬかわかりません。もしかしたら、帰りに事故に遭って、ここで飲んだコーヒーが最後の一杯になるかもしれないでしょ? だからこそ何の記憶にも残らないコーヒーは提供したくないんです」

これがチャカさんのコーヒー哲学だ。お客さん一人ひとりの好みを見極め、細部にまでこだわり抜いた一杯は、飲む人が求める価値を提供しているように見える。

コーヒーの風味を邪魔しない至極スイーツ

COMMUNE⁶はスイーツも絶品だ。メニューはシンプルに1種類のみで、毎週異なるスイーツが提供される。賞味期限24時間の「カスタード生プリン24hrs」や、フランスの伝統菓子「ガレット・デ・ロワ」など、訪れるたびに新しいスイーツに出会えるワクワク感がたまらない。いつまた出会えるかわからない限定感がお客さんの心を惹きつけている。

訪れた日のスイーツは、コーヒーとチョコとナッツのカップケーキ。
ナッツとオレオクッキーのザクザク食感が最高!

そんな唯一無二のスイーツを生みだしているのは、お店専属のスイーツ担当リエルさんだ。チャカさんは、リエルさんの一切妥協しないスイーツ作りとセンスに惚れ込み、店のすべてのスイーツを任せている。そして「このスイーツに出会えたのは奇跡だ!」と絶賛する。

「COMMUNE⁶のコーヒーと彼女のスイーツの間には『絶妙なスキマ』があって、お互いの風味を邪魔していません。コーヒーを飲んでスイーツを食べても、スイーツを食べてコーヒーを飲んでも、それぞれの風味をしっかりと感じられるんです」

コーヒーは繊細な飲み物で、含まれるコーヒー成分はわずか2%とほど。そのため、スイーツが甘すぎると風味が損なわれてしまう。しかし、リエルさんのスイーツは、甘さよりも素材の風味がしっかりと感じられるため、コーヒーの風味を際立たせている。

ユニークな作り手たちによる週替わりランチ

COMMUNE⁶のランチメニューは、スイーツと同様1種類のみ。毎週ユニークなバックグラウンドを持つ作り手たちが、交代でランチを担当している。

来店した日に提供されたのは「原井川うどん」。香川の有名店で修行した料理人が打つ本格的な讃岐うどんのひやしぶっかけだ。ダシの効いたつゆが麺にしっかり絡み、なめらかでありながらもっちりとした食感の中に確かなコシを感じられて、心が満たされる。

毎月第3土曜日のランチの原井川うどん。ランチメニューは事前にInstagramで確認できる。

そのほか週替わりのランチメニューには、お味噌を中心に発酵教室を主宰する岩下紀子さんの 「お味噌汁定食」や、店主チャカさんによる「“黄色い悪魔” エッグベネディクト」や「タイカレー」なども登場する。チャカさんのランチのテーマは「旅ごはん」で、これまで世界中を旅した中でおいしかった料理を熊本の無農薬・減農薬の食材で再現するという。

「僕が人生で出会った料理をその時の記憶をたどって作っています。感動した味をお客さんと共有できたら嬉しいです」

チャカさんは現地の料理を再現するために、必要な野菜が日本で手に入らなければ、種を輸入して農家さんに協力してもらい、1〜2年かけて育ててもらうこともあるそうだ。コーヒーだけではなく、食事メニューのクオリティも追求する姿には脱帽せずにいられない。

チャカさんが慕われる理由とは  

キッチン前のカウンター席に座っていると、チャカさんと常連客の会話が聞こえてきた。会話のやり取りから、チャカさんが彼らから慕われていることがよくわかる。自分の価値観を押し付けず、誰とでも分け隔てなく接するチャカさんの人柄に惹かれた常連客が、自然とチャカさんの周りに集まっているようだった。

チャカさんは、店内のシェアキッチンを利用する作り手たちからの信頼も厚い。カフェのシェアキッチンは、週替わりランチを担当するすべての作り手が同じ立場で自由に使えるという。オーナーであるチャカさんも、あくまでもシェアキッチンの一員であり、そこには「貸主である店主」と「借主である作り手」のような上下関係はない。

お互いを尊重し合う対等な関係性がCOMMUNE⁶の空間に温もりと居心地の良さをもたらしているのだろう。

6つのコンセプトを楽しんでほしい

カフェの店名である「COMMUNE⁶」には、チャカさんの並々ならぬ想いが込められている。「COMMUNE」は英語で親しく語り合うという意味。そして「6」は掲げるコンセプトの数を示している。

6つのコンセプトとは、Coffee(コーヒー)、Meal(食事)、 Travel(旅行)、 Fun(楽しみ)、 People(人)、 Art(芸術)。それぞれが交錯する空間は、単に飲食を楽しむだけにとどまらず、これらのコンセプトを感じることができる。

たとえば、店内に飾られる絵画は“Art”、チャカさんが作る旅ごはんは“Travel”のコンセプトが感じられる。焙煎機を使った焙煎体験は、”Coffee”や”Fun”のコンセプトが当てはまる。

「COMMUNE⁶には、僕が人生に必要だと思う要素をすべて詰め込みました。ここに来たのなら、ぜひコーヒーを飲むだけではなく、空間や体験も楽しんでほしいですね」

店内のキッズルーム。
子ども連れでも親御さんが遊ぶ姿を見守りながらゆっくりとコーヒーを楽しめる。
くつろげるソファー席やマットレス席。
柔らかな照明と温かみのあるアート作品で、至福のコーヒータイムが楽しめる。

コーヒーの楽しみ方をもっと自由に

COMMUNE⁶は、「コーヒーは飲んで楽しむもの」という固定観念を取っ払って、新たな価値観を見つけられる場所だ。

「コーヒーの『自由な楽しみ方』をもっと広めたいんです」と語るチャカさん。たとえば、COMMUNE⁶では、お客さんが気軽に焙煎を体験できる。

「朝ごはんに目玉焼きを焼くのと同じ感覚で、コーヒー豆も自分で焙煎したらいいと思うんです。10人いたら10通りの目玉焼きができるように、コーヒーも十人十色の味わいとなります。自分好みの味に仕上げるのは楽しいものですよ」

チャカさんのこの言葉は、コーヒーの話に限らず、人生の真理を突いているのかもしれない。「何事も型にはめず、思いのままに自由に楽しめばいい」そんなメッセージから、自分が固定観念や思い込みにいかにとらわれているかに気づかされる。

チャカさんが体現するCOMMUNE⁶にしかない空間を一度味わってみてほしい。こだわりのコーヒーやスイーツを堪能しながら、忙しい日々を忘れてリラックスした時間を過ごせる。さらにプラスαの体験で、コーヒーの新たな魅力に気づくかもしれない。きっと行きつけのお店にしたくなるはずだ。

COMMUNE⁶


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