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肉まん

「あ、それから肉まんひとつ下さい。」
「…あっ、袋ですね。」
「いえ、肉まんです。」
「えっ?あっ、肉まんですね、フハッ。(笑)」
「はい、フハッ。(笑)」

彼はそこで小さく笑って、私もそれを面白いなと小さく笑った。
何でもないやり取りだが人間味が感じられてじんわりと胸に広がる。
今日嬉しかったこと。

コンビニというのは無機質なやり取りを限りなく無駄なく行う場所だ。
常に多忙な店員と、並ぶ客からのプレッシャー、パッケージのような会話、
割高さも当然ながら、こういう場所は正直苦手。
ひきこもり気味で感覚の針がマイナスに強く触れているから、歩きながら入るかどうか迷っていた。
……ほかっとした肉まんを求める欲求は強かった。
今日は朝から「絶対に肉まんを買って帰ろう。ご褒美に。」とイメージを固めてしまっていたのだ。
そうして突入したその数分、思いのほか安心できるときが流れていた。
なんてことない、やれた。よし。


肉まんを食べながら、短い会話の岐路での別の対応で生まれる、違う空気を想像してみる。
「え?あ、肉まんですね。」
「はい。」
無表情無感情で何もなかったように次の動作へと進む。
おしまい。コンビニとはこういうところ。

「え?あ、失礼しました、肉まんですね。すみません…。」
「いえいえ。」
しまった、ミスをした、と生真面目すぎるくらいに謝罪する。
もっとはっきり発音すれば良かった、申し訳ない。

客側も違った受け取り方をするかもしれない。
「え?あっ、肉まんですね、フハッ。(笑)」
「…はい。(自分がミスったくせに何笑ってんだよ)」
これは私はない、と言える。ゲラ気味なので。

「え?あっ、肉まんですね、フハッ。(笑)」
「はい…。(何?私が肉まん食べるのが可笑しい?コイツ肉まん似合ってキモイとか思われてるんじゃ…)」
はい、これは私に十分あり得る妄想。
実際店員さんの目が気になってものを買えなかったことがある。
ひきこもり中だったりメンタル降下中だと、やたら周囲の自分へ向ける目を怖く感じて、攻撃的な他人を想像をしてしまいがちだ。

でも実際に人と関わってみると世の中そんなに怖いことばかりではないのは知っている。(知っているけど出られないときがくるのだが。)
今日私が出会ったのは、何をどうやったんだか知らんが、「肉まん」を「袋」と聞き間違えてしまい、そんな勘違いを私同様に面白いと噴き出してしまう和やかな人だった。

戦利品の肉まんはおいしく、外に出て良かった、とそんな日になった。
ありがとう。コンビニのお兄さん。


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