ショートショート:しゃべるピアノ【410文字】
美しい私のピアノ。
叩きつけて、ペダルを踏んで、私は音を奏でる。足は細くて曲線的。鍵盤は白く、叩くと儚い綺麗な音がする。私の大切なピアノ。
パパもママも忙しくて、誰も私にかまってくれなかった。私はピアノが欲しかった。でも、買ってもらえなかった。ピアノを持っている子が羨ましかった。
私は、このピアノを手に入れてから、何もかも全てをピアノにぶつけた。悔しさも悲しみも、怒りも憎しみも、全てピアノは受け入れてくれた。私の孤独を癒やす唯一の存在。
今日も私はピアノを弾く。酷く感情的に。ママが私を叩くみたいに、パパが私を殴るみたいに、私はピアノを叩くし、殴る。
「……お、お嬢様、少し痛みが強いのでございます」
「うるさい!黙れ!お前はピアノだろ!しゃべるな!」
「か……かしこまりました」
ピアノは再び四つ這いになる。彼は、両親が私に与えた従順な執事。私は執事に、ずっと渇望していたピアノになりきる、それだけの役割を与えた。私の愛しい奴隷。
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