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〆好きな人とキスがしたい

「そんなのいいからさ、ね、ベット行こうよ」

私は身体を安売りしてしまった。
安売りしないと得られない経験もあるのだ。
でも、最後には罪悪感と涙しか残らなかった。

好きな人に振られて、マッチングアプリで出会った人にファーストキスを取られた私は、完全に自暴自棄になっていた。

「私、何してるんだろう」

友人の中には、
5月から恋人と同居するために両親に挨拶をした人
最近彼氏ができて、遠距離だけど頑張っている結婚して、赤ちゃんを産んだ人だっている、

私は21年間、恋人が居ない。

まだ若いと言う人もいるけど、
私にはそれが焦りでしかないし、コンプレックスで。
ただ、経験が欲しかった。

友人の紹介で出会った人と飲みに行った。
2歳年上の大学院生だった。
目が細くて色白で、韓国人みたいな顔立ちだった。
今までの私の恋愛のことを話して、
彼も2か月前に3年付き合った彼女と別れた話を聞いた。お互いお酒も進み、酔っていた。帰り道の橋の上で手を繋がれた。

「ぎゅーしていい?」
「いいよ」
「ちゅーしていい?」
「いいよ」

顔はタイプではなかったし、
性格もあまりよく知らなかったが
話しを聞いてくれたし、趣味もあったから
別にいいと思った。正直もうどうでも良かった。
キスは好きな人としたほうがいいよ、なんて
ついこの間まで友人にアドバイスしていた私は
どこに行ってしまったのだろうか。

「家、くる?」
「いいよ」

もしかしたらもう、私には体しか男性が見てくれる場所がないのだと思った。
彼のポケットに入れられた私の手は、一向に暖かくはならなかった。

「その格好でいいの?なんかジャージ貸そうか?」「うん、ありがとう」

アクセサリーを外すときに
片耳のイヤリングを無くしたことに気づいた。
一目惚れで購入して、
大事にしすぎて、まだ2回ぐらいしかつけてない
淡い紫色と白のイヤリングだった。

「イヤリング無くした」
「あ~、俺が抱きしめたときに落としちゃったかな」「まだ、2回しかつけてないのに…どこで落としちゃったんだろう、部屋に落としてるとかないかな」

そう言って、床を見渡す私に、

「どうだろうね。そんなのいいからさ、ね、ベットいこうよ」

そう彼は言った。

「そんなの?」
「だって、もう仕方ないじゃん?」
「…まあ、そうだね」

この人とは価値観が合わないと思った。
そんなに大事なイヤリング、
私はなぜ今日に付けてきてしまったのだろう。
後悔しかなかった。

ベットに入り、キスをした。
力任せで雑なキスだった。
私は好きな人とキスをしたことがない。

「マッチングアプリの人よりいい?」
「いいよ」

いつだか覚えた社交辞令が役に立った。

「凛花ちゃんと今日初めて会って話したけど、俺は付き合ってもいいと思ってるよ」
「私のこと好きなの?」
「…あ~そういわれたらどうなんだろうなあ」

彼は、好きでなくても付き合えるようだ。
触られるのが凄く嫌になった。どうでも良かったし、どうにでもなると思っていたのに、それ以上は好きな人としたかった。

「ごめんなさい、これ以上は出来ない」
「あー…ごめん、分かったよ」

その後は何もしてこなかった。
そのまま寝る彼に背を向けて、
こっそり泣きながら寝た。

「おはよう」

目が覚めると、酔いも冷めたようで
罪悪感だけが私の心に残った。
私、何してるんだろう、馬鹿だ。
自分で言うのもあれだが、
私は真面目で生きてきた。
友人にも昨日みたいな事はやめなさいと
説教をするタイプだった。
そんな自分が誇らしかった部分もあった。
なのになぜ、今、好きじゃない男性と。

彼はコーヒーを入れてくれたが、
私は、仕事がある、と一口だけ飲んですぐにアパートを出た。
替えのコンタクトも眼鏡も持っていなかったので
ぼやけた視界のまま、1時間ほど歩いて家に帰った。
帰りにイヤリングを探したかったが、
何も見えなかった。
私の手元には片方だけのイヤリングが残って、
それからはもう、引き出しにしまってある。
イヤリングを見ると思い出してしまう。
身体が汚れてしまったような気がする。

「こんなはずじゃなかったのに」

自分が悪いのに寂しさのせいにしたかった。
全て私が、寂しさを他人で埋めようとしたせいだった。

その後、彼から何度か連絡があったが
彼氏ができたと嘘をついて連絡を絶った。

「好きになりかけてたんだけどな。もっと可愛かったらな、まあ、彼氏に釣り合うように頑張ってね」

私が悪い。
この嫌味は、人の心を軽く扱った私への罰だった。
申し訳ないとは思ったが、もう思い出したくもなかった。

私は恋愛が苦手だ。
どうしてもうまくいかない。
たくさん振られたし、思わせぶりもされたし、
こうやって、馬鹿な事だってした。
好きになった相手は悪くない。
私が本当に不器用で極端なだけなのだと思う。
昔から、好きな人ができるとその人のことしか考えられなくなる。
今だってそう、気になりだすと、
ラインまだ来てないとか、なんて返したらいいとか
文章長すぎるかもとか、何分おきに返したらいいかとか、すぐ返したら引かれるかなとか思っても、
結局我慢なんかできなくて、すぐ返信してしまう。
なんとも思ってないときは、気にならなかったのに
好きになると脳みそがその人のことでいっぱいになる。

早くもっと相手を知りたいし、
私のことも話したい伝えたい。
病気なんじゃないかと思う。
妄想力だけは人一倍あって
この人と今度会えたら、あれ食べてこれしたい。
その前に新しい服を買って、美容院に行って
ヘアコロンをつけて行ったら、
かわいいなんて言われたりして。なんて、
脳みそはお花畑状態。

好きな人が自分を好きだなんて
そんなに幸せなことってないよ。
そんな奇跡に近いこと自分にいつか訪れるのかな。

私は、好きな人とキスがしたいよ。

                   つづく



















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