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230億円の大幅減収のJリーグも他人事ではない!?『ポーツマスFC-破産からの再生-』

愛するクラブが明日消滅してしまうかもしれない…
そんな時、あなたは何を思い、どんなことができると考えますか?

みなさん、こんにちは。ヨコハマ・フットボール映画祭note公式マガジン第25回は加藤麟太郎が担当します。

10月9日〜15日開催するヨコハマ・フットボール映画祭2021では、世界中から集められた選りすぐりのサッカー映画10本を上映します。今回はその上映作品の中から、イングランド・プレミアリーグに所属するクラブとして初めて倒産を経験したポーツマスFCのドキュメンタリー『ポーツマスFC-破産からの再生-』取り上げます!
本作では、クラブが右肩上がりで成長する中で表面化した経営危機からどんな困難に直面し、そして”イングランド最大の市民クラブ”として生まれ変わるまでを関係者たちの証言と共に追っています。

《ストーリー》
69年ぶりにFAカップを制覇し、さらなる飛躍が期待されたポーツマスFC。しかし折からの金融危機により雲行きは一変。有望選手は放出され、オーナーは何度も交代。遂に2010年、プレミアリーグ史上初の破産宣告を受ける。
その時、何が起こり、どう切り抜けるべきだったのか?決して他人事ではないドキュメンタリー

大躍進と悲劇の始まり

1948-49と49-50シーズンに旧1部リーグを連覇するほどの古豪クラブであるポーツマスFCは、2001年から03年に川口能活さんが日本人GKとして初めてヨーロッパに挑戦したクラブとして知られています。長年下部リーグでの生活が続いていたものの、02-03シーズンにチャンピオンシップ(2部)を制覇し念願のプレミアリーグ昇格を果たしました。

そんなポーツマスのプレミアでの戦いは当初残留争い続きでしたが、2006年1月にアレクサンドル・ガイダマクがオーナーに就任すると一変します。ソル・キャンベルやデイビッド・ジェームス(イングランド)、ヌワンコ・カヌ(ナイジェリア)、ニコ・クラニチャール(クロアチア)といった中堅からベテランまで各国の代表クラスの選手を獲得し、06-07シーズンを9位で終え、さらに07-08シーズンには69年ぶりとなるFAカップを制覇したのです。

初のヨーロッパ挑戦などに胸を躍らせ08-09シーズンを迎えたポーツマスでしたが、序盤にこれまでの大躍進を支えてきたハリー・レドナップ監督をトッテナムに引き抜かれることになります。加えて金融危機(リーマン・ショック)の影響により、オーナーのガイダマクは09年の1月に多額の負債を抱えたクラブの売却を決意。この決定が悲劇の始まりでした。

無題のスプレッドシート - シート1のコピー

プレミアリーグ昇格からのポーツマスFCの年表

降格、そして2度の破産

08-09シーズンは14位でプレミア残留を果たしたものの、ポーツマスを取り巻くピッチ外の問題はとどまる所を知りませんでした。09-10シーズン開幕前にクラブの売却先が決まりましたが、以降は3度に渡るオーナー交代、選手への給与未払いなどが発生し、そして10年2月、クラブは破産申請を発表し、プレミアリーグ史上初の破産したクラブとなってしまったのです。ピッチでも開幕から低空飛行が続き、さらには破産によるペナルティとして勝ち点を9ポイント剥奪されるなど最終的に残留圏と16ポイント差の最下位でプレミアリーグでの生活の終わりを迎えたのでした。

チャンピオンシップ1年目を16位で終えた11年6月、ロシア人の富豪ウラジミール・アントノフがオーナーに就任。これでクラブの再建に期待が寄せられますが、またしてもクラブは苦境に立たされることになります。同年11月にアントノフが逮捕されたことでクラブはオーナーも資金も失ったのです。
前回の経営危機と同様の給与未払いに加え、今回は税金の支払いもできないとのことで解散の申し立てをされたポーツマスは、存続さえも危うくなります。そして、12年の2月に2度目となる破産申請を行い再び管財人の下で再建を図る道を選んだのでした。

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サポーターが舵を切った再スタート

ポーツマスが破産申請をした11-12シーズン。当初彼らは残留圏内にいたものの、破産申請により剥奪された10ポイントが大きく響き、最終的には翌シーズンからリーグ1(3部)で戦うことになってしまいます。迎えた12-13シーズンも、開幕前には選手を雇用できずまともにプレシーズンマッチを戦えなかった上、シーズン途中にはまたしても10ポイントの剥奪、そして資金が集まらない場合にはリーグから追放され、チームも消滅してしまうというまさに窮地に追い込まれたのです。

そんなクラブの窮地にサポーターたちが立ち上がります。彼らはプレミア時代の経営危機の際、メディア関連の対応をするポンピー・バーチャル同盟、抗議デモなど直接的な活動を行うSOSポンピー、そしてクラブの再建に参画することを目的に設立されたポンピー・サポーターズ・トラスト(以下PST:The Pompey Supporters Trust)という3つの組織を結成して活動を行なっていました。
※”ポンピー”とはポーツマスFCの愛称

中でもこの時に精力的にアクションを起こしたのは、PSTでした。彼らは理想的な形でクラブを存続させるべく、買収に向けた資金集めに奔走することになります。1500人のサポーターによる出資だけではなく、富裕層の支援者との提携も身を結び約600万ポンド(約9億円)ものの資金を集め、そして13年4月、遂にサポーターの手にクラブが渡ることになったのです。これによりポーツマスは、イングランドのプロサッカークラブとしては珍しい”市民クラブ”として再スタートを切ることになりました。

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証言と図解から軌跡を追う

『ポーツマスFC-破産からの再生-』では、クラブ関係者やサポーターの言葉を中心にプレミアでの躍進から挫折、復活に向けて動いたポーツマスの約10年間の軌跡を追っています。さらに混乱を招いたオーナーの1人の証言もあったり、情報を学校の授業のように図解を含めまとめてくれるため、複雑に入り組んだクラブの問題や出来事について分かりやすくまとめられています。

プレミアリーグ時代のポーツマスの経営危機は日本のサッカー情報番組でも盛んに取り上げれていましたが、降格後は彼らのことを目にする機会が減りました。
本作では当時を知るファンの皆さんはあの時何が起きていたかを振り返りつつ、今ポーツマスがどのようにプレミアに返り咲くために戦っているのかを知ることができるはずです。そして当時を知らないかたも、自分の愛するクラブと重ね合わせながらサッカークラブのあり方、サッカークラブとは誰のものなのかなどを考えるきっかけにしてもらえるかと思います。

明日が分からない今だからこそ見てほしい

世界中を襲った新型コロナウイルス。その影響はサッカー界も例外ではありませんでした。プレミアリーグのように既にワクチン接種をしている人を対象に収容人数に対して100%の観客数で試合を行い、スタジアムにサポーターの歌声が戻ってきつつあるリーグもありますが、それは本当に一握りでしかありません。こうした観客を満足にスタジアムに入れることができない環境が約1年半続いているということで、クラブの収入源の一つであった入場料収入も減少しているのです。実際にドイツの1.FCカイザースラウテルンや、イングランドのウィガン・アスレティックFCといったクラブがコロナの影響もあり破産するという事態に陥っています。

日本においてはJクラブが破産にまで至っていないものの、2020年度の決算を見ると56クラブ中35クラブが単年赤字、10クラブが債務超過と厳しい状況に置かれています。さらに全クラブの合計の営業収益を見ても、過去最高を記録した一昨年度より230億円の大幅減少となっているのです。
このようにJクラブは苦しみながらも生き残っている一方、地域リーグに目を向けると中国リーグに在籍していたデッツォーラ島根ECがコロナの感染拡大の影響によりチームの運営が困難になったということでトップチームを解散させるという悲しい出来事が生じています。

チームを”支える”立場であるサポーターは、こうしたクラブの危機を他人事と捉えて良いのでしょうか?例えば、前オーナーや管財人たちのPSTに対する懐疑的な態度に対し、イアン・マキネス氏は「他人事ではないと感じ、ならば見返してやると決めた」とPSTを支援し、クラブの会長に就任した経緯を作中で口にしています。クラブが困難に直面している時こそ、自分ができることを見つけて支える。これこそサポーターのあるべき姿だと私は考えています。

クラブの収益源の確保が思い通りにいかないこのコロナ禍は、サッカークラブにとって12年前の金融危機以上に厳しい状況であるのは間違いないはずです。明日がどう転ぶか分からない今だからこそ、クラブとサポーターが一体となり存続したポーツマスの姿からサポーターの力というものを感じ取ってもらいたいです。

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この作品はヨコハマ・フットボール映画祭2021でご覧いただけます。
近日チケット発売となりますので、ご注目ください!
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