見出し画像

サポーターがスタジアムを再建!?村井チェアマンも絶賛のドキュメンタリー『スタディオン』

皆さんこんにちは。ヨコハマ・フットボール映画祭note公式マガジン、第9回は加藤麟太郎が担当させていただきます。

YFFFでは4月27日に、サッカー映画に特化した動画配信サービス「YFFFオンラインシアター」をオープンしました。このサービスでは、これまでの映画祭にて上映した選りすぐりの10作品を、各600円でレンタル視聴することができます。
今回はそんなオンラインシアターで配信中の『スタディオン』を、皆さんにご紹介します!

この作品はチェコのFCズブロヨフカ・ブルノ(以下:FCズブロヨフカ)のサポーターたちが、荒れ果てたかつてのホームスタジアムを自らの手で再建していく姿を追ったドキュメンタリーです。また、このプロジェクトのリーダーを務めたマレク・フィシェルさんと、活動に貢献したFCズブロヨフカのサポーターたちは、YFFFアワード2020においてベストサポーター賞を受賞しました。

何故サポーターたちが立ち上がったのか?

2001年、FCズブロヨフカは約50年過ごしたホーム、ザ・ルジャンカミ・スタジアム(以下:ルジャンカミ)を離れることになります。クラブは新ホームに移って以降、観客動員が大きく減ったことでかつてのような熱気を失い、2011年には2部リーグ降格の憂き目に遭うなどパッとしない時期を過ごしていました。
また5万人の収容能力を持ち、国内最大のスタジアムであったルジャンカミも長年に渡り放置され、ゴールポストの半分に届くくらいの雑草がピッチに生い茂り、スタンドには木が生えるなどまさに荒廃していきました。

スタディオン_Stadium - grass_コピーライト表記不要

再建プロジェクト前のザ・ルジャンカミ・スタジアム

そして2015年、地元出身のOB選手ペトル・シュヴァンカラの引退試合をルジャンカミで行うためにサポーターたちが立ち上がります。マレクさんを先頭に、それぞれが自分の役割を担いながら「どこから手をつければ良いか分からない」スタジアムの壮大な再建プロジェクトがスタートしたのです。

スタディオン_Screen Shot_コピーライト表記不要

スタンドの修繕に取り組むサポーター

それぞれの想いをこめて

みんなで歌おう 思い出そう スタジアムを奪われた我ら
昔々 ルジャンカミで ブルノは王者だった

『カントリー・ロード』のメロディーに乗せたこの曲をはじめ、FCズブロヨフカのサポーターたちが失った故郷を想うチャントを歌うように、彼らにとってルジャンカミは大切な場所だったのです。そんなかつての我が家の復興に向けマレクさんのようなクラブを生きがいにしている男たちはもちろんのこと、幼い子どもからスタジアムの輝きを懐かしむ白髪のサッカー女子まで、老若男女が集結しました。

夫の心はここに取り残されたままなの。「他を応援すれば?」って言ったんだけど「ブルノだ」って。だから私も応援するわ。

これは物語冒頭に登場する老婦人の言葉です。またマレクさんも、サポーターになるきっかけであり、ルジャンカミが復活する前にこの世を去った父親の想いも一緒に背負っていました。こうした多くの人々の想いや汗が結晶となり、サポーターの熱気がルジャンカミに戻ってきたのです。

スタディオン_suCrowd_コピーライト表記不要

シュヴァンカラの引退試合の際、ルジャンカミに集まったサポーターたち

大プロジェクトに群がる人々

ルジャンカミの再建プロジェクトはスタート時からニュースでも報じられるなど、注目を集めました。実際にFCズブロヨフカと同じくブルノにホームを置くアイスホッケーチーム HCコメタ・ブルノのファンが「困っている時はお互い様」と助っ人を買って出るなど、プロジェクトの輪は大きく広がっていきます。同時にこれは、サッカーとは接点のない団体や、政治、民族問題などが複雑に絡み合っていくということでもありました。
中にはこのプロジェクトを利用しようという策略を持ち合わせて参画する人もおり、その裏側をTHE STADIUM HUBのインタビューで監督のトマーシュ・フラバチェックさんが下記のように語っています。

マッチデーにHCコメタ・ブルノのビッグフラッグを掲出したのは、実はプロによるマーケティング活動、営利事業だったのです。FCズブロヨフカのサポーターやボランティアの皆さんが気に入らなかったのはその点です。

スタジアムの建設や改修はどこも一筋縄ではいかないのかもしれないですね。

スタディオン_Cyclists_コピーライト表記不要

プロジェクトに参加した市民団体

プロジェクトを成し遂げたマレクさんの情熱と行動力

YFFF2020での上映時、マレクさんとトマーシュさん、そしてプロデューサーのルカシュ・スヴォボダさんが作品の魅力を伝えるため、横浜まで駆けつけてくれました!この来日は映画祭の3日前に急遽決定し、『スタディオン』上映の前日に到着して翌日の午前中には帰国するという強行軍だったのです。
マレクさんたちはメキシコの映画祭への出品以降、この作品を世界中に広げたいという熱い想いで世界中を回っており、YFFFの翌週にはブラジルに渡っていたそうです。そんな彼らの情熱と行動力を肌で感じた私は、「この情熱がきっかけで多くの人を巻き込んでいったからこそ、プロジェクトが上手くいったんだな」と再建プロジェクト成功の要因をそんな風に考えています。

画像6

左からトマーシュさん、マレクさん、ルカシュさん

日本のスタジアム建設のヒントがここに

この『スタディオン』、実は村井満Jリーグチェアマンから「Jリーグのスタッフたちにも是非見てほしい」という絶賛のお言葉をいただいた作品でした。また映画祭後に行われたYFFFアワード2020の審査会では、下記のような総評をされています。

まさにシナリオのないドラマでした。Jリーグではスタジアムの新規建設を行っていますが、スタジアムはサポーターとともに作り上げていくものだと改めて感じさせられ、感動しました。
画像7

マレクさん、ルカシュさんと談笑する村井チェアマン

日本におけるスタジアムの新規建設や改修は、その輪郭が見えているクラブもあれば、クリアしなくてはならない障壁と長年に渡り向き合っているクラブもあるのが現状です。また行政が管理するスタジアムを借りるパターンが中心の日本では、ファンが他人事のように建設や改修を望むだけではなく、ホームタウンで生活する無関心層も巻き込んでいかなくてはいけません。そのためにはクラブや行政任せにするのではなく、ファン・サポーター自らが今できることを見つけることが必要なはずです。例えば、シンポジウムを開いて仲間を集めることや、街の議員になって行政や財界を動かすことは一つの手かもしれないですね。
また当たり前に行われている署名や募金も、ファンやクラブによるアクションが何も起きていない場所で行われるのであれば、これはそのスタジアムにとって前進だと私は思います。

何万もの人々が集まるスタジアムに対して、一人のサポーターができることは限られています。しかしルジャンカミは、そんなサポーター一人ひとりのアクションが集まり大きな波となったからこそ、復活することができました。『スタディオン』で描かれているマレクさんたちの姿から、スタジアム建設と向き合うJクラブや支えるサポーターたちのヒントが見つかるかもしれません。この作品を見たサポーターがアクションを起こすきっかけを発見し、日本のどこかに新スタジアムが誕生すれば実行委員冥利に尽きます。

『スタディオン』がもっと楽しくなる3つのトリビア

FCズブロヨフカと、ルジャンカミにまつわるトリビアを集めてみました。チームやスタジアムの歴史や背景を知れば作品をもっと楽しく見れるかも!?

①クラブの創設は大正時代!
FCズブロヨフカの歴史は古く108年前の1913年(大正2年)には誕生しており、旧チェコスロバキアリーグでの優勝経験を持つ古豪クラブです。ちなみに、合併やメインスポンサーの変更などでチーム名の変更を12回も行っており、2010年から現在のFCズブロヨフカ・ブルノという名称になっています。

②栄光へ導いたチェコの伝説
1978年にFCズブロヨフカがリーグタイトルを獲得した時、チェコのレジェンド選手であるヨゼフ・マソプストがチームの監督を務めていました。マソプストは1962年W杯チリ大会において全試合に出場し、チェコスロバキアの準優勝に貢献。さらに同年のバロンドールを獲得するなど、まさに伝説の選手です。しかし監督としてはあまり結果が残せず、数々のチームを渡り歩いたもののこのリーグ優勝が唯一のタイトルでした。

ブラジルとのW杯決勝 先制点を奪ったのがマソプスト

③21世紀最多の観客動員数を記録
ルジャンカミ再建プロジェクトの最大の目玉であったシュヴァンカラの引退試合には3万5000人が集まったとされています。これは21世紀のチェコにおける最多の観客動員数だそうです。
ちなみに、現在チェコ1部リーグのクラブのホームスタジアムはどこも2万人以下なので、この記録はしばらく抜かれることはなさそうですね。

『スタディオン』の本編レンタルはこちら↓
https://vimeo.com/ondemand/stadionjpn

最後までお読みいただきありがとうございました。ヨコハマ・フットボール映画祭note公式マガジン第9回、担当は加藤麟太郎でした。
マガジンのフォローや、SNSで拡散してくださると嬉しいです。皆さんの応援があすのヨコハマ・フットボール映画祭を創ります。
次の記事もお楽しみに…

スタディオン_ポスター_コピーライト表記不要


この記事が参加している募集

おすすめしたいスポーツドキュメンタリー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?