#6 大島さん(後編)

大島さんは猫を飼っていて、全く懐いてないらしいが可愛がっている。
猫の性格がちょっと変らしく、そこがおもろ可愛いんだとか。ある日どこかから猫のフニャ〜という鳴き声がして、お風呂場を見るとお湯の張られたバスタブの淵かどこか細いところに猫がいて、行き止まりで方向転換も出来ず、動けずに情けない声でフニャ〜と鳴いていた。「あんたそんなとこいたら危ないよ」と抱っこしてあげようと近づくと、来るなと言わんばかりにシャー‼︎と鳴くので、「じゃああんた自分で戻れんの?」と声をかけてもビビりでお湯を飛び越えることも出来ないので身動きが取れず、本当は困ってるだろうに声だけは一丁前にシャー‼︎と鳴いている。もう仕方ないので大島さんが無理矢理抱っこしようとすると、ンギーーーー‼︎‼︎‼︎と、どっから声出してんのよという声を発しながら、特に抵抗することなくされるがまま抱えられて救出された。そんな様子を大島さんは訳わかんなくて可愛いのよと言っていた。
そして大島さんは猫用のインスタアカウントを持っているらしく、そのインスタで出会った猫友とのオフ会に1、2回参加したことがあるそうだ。ただ、その話をしている時になぜか頑なにアカウントを知られないようスマホを私から見えないように傾けるので、別に知ったところで何もしないし、知りたいとも思ってませんけどと心の中で思っていた。あれだけオープンな人なのになぜ猫のインスタだけ隠そうとしてるのだろうか。

のちに私はこの派遣バイトを事実上やめて他の仕事をするのだが、そのきっかけを作ってくれたのが大島さんである。
「事実上やめて」と書くのは、今もまだこの派遣バイトに籍があるからだ。あまりにも楽しかったので、なんとなく籍だけ置いている。このバイトは割と不安定で、仕事がある時期とない時期がある。コロナに入って一年経った頃、仕事の誘いがなく、来月から仕事が無くなってしまうではないかと思い、大島さんにそのことを話したら、初めて会った時に紹介された別の派遣バイトを再び紹介され、担当の社員さんに繋いでくれた。そのおかげで私は翌月からも仕事にありつくことができた。
担当の社員さんからメールで派遣先を紹介された時、それが都心のオシャレタウンのセレブっぽい商業施設の高級店で、そんなところと無縁の私には荷が重いと返事を躊躇っていたところ、大島さんが「でも小汚いさぁ、トイレとかボロボロの所よりいいじゃな〜い」と言われ、それもそうかとそこで働くことに決めた。ちなみに大島さんはこの担当の社員さんを心の底から信頼しているそうで、この人に紹介されたものは何でも引き受けることにしていると言っていた。

私がこの派遣バイトとご無沙汰になった後も、私の地元の近所の駅で割と長期で働いていると聞いたので、たまに行って軽く雑談し、大島さんが休憩で食べるはずだったであろうファミマの抹茶フィナンシェをもらったりした。

大島さんは目がぱっちりしていてまつ毛が綺麗に上向きにカールしており、カラーマスカラがよく似合う。ファミマのフィナンシェをもらった時も、ミルクティーブラウンみたいなカラーマスカラをしていて、それがとても綺麗だったのでそこにしか目がいかなかった。そして髪の毛もそれまでは長めでいつも一つに結んでいたが、その時は髪を切って肩にギリギリつかないくらいのボブになっていた。

私は大島さんのそういう新しいオシャレも取り込む前向きさや、何でもポジティブに変換してやってみようという姿勢がとてもいいなと思っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?