ヨーロッパ企画はいいぞ―2021年3月1日

・ヨーロッパ企画という劇団が好きだ。代表作に『サマータイムマシンブルース』や『曲がれ!スプーン』、岸田國士戯曲賞を受賞した『来てけつかるべき新世界』などがある。Vtuberオタクには「月ノ美兎が初期に配信していたクソゲー群の生みの親」といった方が通りがいいかもしれない。

・全公演の脚本・演出を務めるのは上田誠さん。アニメ『四畳半神話大系』や『夜は短し歩けよ乙女』の脚本もやっていた人だ。座付きの役者さんも本多力さんや永野宗典さんなど、数々のドラマや映画でインパクトのある役どころを演じていた名脇役揃い。

・最近では『ドロステのはてで僕ら』という「2分後の未来が映るタイムテレビ」を巡る長編SF作品で映画界への進出も果たし、この度なんと海外での上映も決定したという。すさまじい快進撃だ。


・そんなヨーロッパ企画がフジテレビで深夜に『ヨーロッパ企画のYou宇宙be』という番組をやっている。その中で短編ならぬ掌編映画というべき短めの映像作品を放送していて、それがとても面白い。

・例えば昨日観たのだと、この『時をまたぐ少女』が良かった。時空の歪みによって映画館の中で世界線が重なり、パラレルワールドの自分と対面することになった観客たちの話。映画らしい起伏はほとんどないのだが、やはり自分同士だから気が合うのだろう、別の世界線の「私」「僕」「俺」と仲良さそうに(ヤクザ同士は喧嘩してたが)話し込んでいる彼女ら彼らがとても微笑ましく、それゆえに時空の歪みが直ってひとりになってしまった時の切なさが胸を仄かに熱くする。そんな話だった。5分程度の短い動画なので、ぜひ見てほしいなと思う。

・乃木坂46の鈴木絢音さんが主演だったので、コメント欄にもファンの方たちが集まっていた。他の動画はコメントが1個か皆無という状態なので、こうやってどんどん裾野を広げていってほしい。というか鈴木絢音さん、今回初めて知ったんだけど、演技がとても自然でよかった。結構ドラマとか出てるのかなと思ったら舞台役者として活躍されているらしい。見た目の飾らない感じが素敵だと思います。


・あとは労働用として開発されたクローン人間が勢力を拡大し、ついには回転寿司屋に彼らしかいなくなってしまった未来を描いた『サラリーマンは電気鮪の夢を見るか?』も好き。設定自体は重厚なSFなのに、同じ顔の人たち(半沢直樹で片岡愛之助に股間を握られていた石田剛太さん)が和気あいあいとお寿司を食べてる光景が何だか滑稽だし、時おり「クローンギャグ」みたいなのを挟んでくるのもニクめない。本編3分半という小粒ながら立派なSFコメディとして仕上げてくるのは、さすがヨーロッパ企画だなと思う。

・メイキング映像も配信されているのだが、別撮りした映像をどうやって合成したらこんなキレイに繋がるのかを知りたかった。


・そしてYouTubeに上がってる中で白眉と感じたのは、『時間逆行ショートムービー トネッテ』。主人公・戸根はときおり発作を起こし、時間が逆に流れる、いわゆる逆行世界に迷い込んでしまう。だが周りの人間は順行なので、彼らに違和感を与えないよう行動しなければならない。そんな男の戸惑いと奔走が面白いのだが、ラストは意外と感動できる。ノーラン監督の某映画と同じ手法を使いながら、ここまでポップな作品が作れることに驚いた。

・ちなみに台本における順行世界の人たちのセリフは上下逆さまになっていたらしい。そこまで忠実にしなくても、と思ったが、確かに役者さんにはイメージが伝わりやすいかもしれない。というかどうやって文字入力したんだろう。


・他にもヨーロッパ企画では、

色んなものに邪魔されて焼きそばU.F.O.が食べられず、その度にタイムリープをする『U.F.O.食べタイムリープ』とか(主演が宮野真守なので、完全に鳳凰院凶真)

ジャルジャルとコラボして『仕上げにオールバックされるのが嫌すぎてタイムリープする奴』という映像コントを作ったりとか、色んな面白い作品をYouTubeに上げているので、暇があったら見てほしいです。全部観ても1時間行かないぐらいなのに、傑作SF映画を1本観たぐらいの満足感を得られると思います。

・そしてハマった人には、ぜひ本公演も観てほしい。本公演にこそヨーロッパ企画の良さがぎっしりと詰まっている。U-NEXTに登録すれば『サマータイムマシンブルース(舞台版)』『出てこようとしてるトロンプルイユ』など数作品が見放題だし、それ以外の公演DVDも公式HPに行けば3,000円という低価格で購入できます。門戸は誰にでも開かれていますので、ぜひヨーロッパ企画の魅力にどっぷり浸かってみてはいかがでしょうか。

・以上、オタクの布教でした。

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