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【微ネタバレ有】建設会社がマジンガーZの格納庫を造る⁉『前田建設ファンタジー営業部』感想

『前田建設ファンタジー営業部』は、建設会社のノウハウ・知識を総動員してマジンガーZの格納庫を作ってしまおう、という実際のウェブ企画を基にしたコメディ映画である。設計図はもとより、見積書や施工計画書(工事全体の着工日と竣工日や、工種別の開始時期と終了時期などを記したスケジュール表)まで作ってしまう徹底ぶり。

出演者は実力派揃いだ。高杉真宙や岸井ゆきのといった若手俳優が彩りを加える傍ら、おぎやはぎの小木博明が勢いと笑いを添え、上地雄輔や六角精児が安定感のある演技で支える。脚本が上田誠ということもあり、氏が所属しているヨーロッパ企画の看板役者・本多力が出ているのもファンとしては嬉しい。

ストーリーも王道的で、とても面白かった。初めは「こんなくだらない企画…」と乗り気でなかったメンバー達が、マジンガーZ本編の面白さや実際の土木現場で働く作業員の熱意に絆され、本気で取り組むようになる過程は、私にも身に覚えがあり、とても説得力があった。

私も前職では建設会社に勤めていた。研修期間は座学で建築の知識を学ぶことが多かったが、正直あまり面白さを感じられず不安であった。だが一度、実際の現場を覗いてみると、見たことのないたくさんの機械が動き回る様や建築資材の手触り、土や躯体を踏みしめる感覚、そして現場職員による経験談を交えたリアルなお話に、建築という分野の奥深さと面白さを見出したのを覚えている。この映画を観て、そんな当時の感情をありありと思い出すことができた。それだけで満点を付けたくなるほどの出来であった。

また建築にだけでなく、マジンガーZへの、ひいてはフィクション作品への敬愛も見て取れる。

例えば作画の関係上、格納庫は話数によって見た目や構造が大きく変わる。架空の建物を現実に再現しようとするのだから、その差異は避けて通れない問題だ。そんな中で彼らは、通常であれば「まあフィクションだし…」となあなあで片づけてしまうところを、きちんと論理的に分析してその事実と向き合い、現実的に処理しようとする。その姿勢に、妥協は一切感じられない。

また、終盤ではそれまでの設計図や計画書を根底から覆しかねない事実が発覚するのだが、それでも「地球を守るためだから!」と決して諦めず立ち向かう彼らに思わず涙腺が緩んだ。

「架空の計画にそこまで本気にならなくても…」と思う向きもあるだろう(そもそもそういう人はこの作品には向いていない)が、そのバカバカしいまでの本気度が、笑いと感動とワクワクを心中に呼び起こす。そこに更に上田誠さん脚本による自然な台詞回しと軽妙な掛け合いがエッセンスとなり、本作を上等なコメディ映画にまで高めている。

余談だが日本映画は海外の作品とよく比較される。それは邦画が洋画クラスの派手さを求めてしまう故に、製作費や技術の点で見劣りしてしまうからだろう。本作のように、銃も殺陣もカーチェイスもないけど、くだらないことに全力で取り組む人物たちの悲喜こもごもをコメディタッチに描かせたら、邦画の右に出るものはないと私は思う。クールジャパンと合わせて世界で評価されて欲しいな、と本気で思える作品だった。

ちなみに前田建設工業ではマジンガーZの格納庫だけでなく、銀河鉄道999の「メガロポリス中央ステーション銀河超特急発着用高架橋」や、機動戦士ガンダムの「地球連邦軍基地ジャブロー」といった続編も書籍化されているとのこと。本作の文庫本と一緒に、それらの”作品”も見てみようかなと思った。

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