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「命よりも金」か?

コロナ禍の影響でFacebookも大騒ぎ。
僕のタイムラインにも当然のように各ニュースサイトによる関連の記事が並んでいる。

で、どのような内容の記事かは覚えていないし、そもそもその記事を読んだかどうかも覚えてない。しかしそれにも関わらず、その記事のコメント欄にあったある書き込みだけは覚えている。
イラッとしたからだ。

正しい文言ではないと思うが、それは「これだけの死者が出ているにも関わらず経済について心配している人は、命よりも金が大事なんでしょうね!」という内容の、無垢な子供かアホな大人かと無神経な書き込みをしていて呆れ果てた。
そして、一年前だったか、中部地方のある自動車工場で期間工として一緒に働いたある人を思い出した。

名前は出さない方が良いと思うので、仮にO島さんとしておこう。
O島さんは、僕(45歳)より少し上くらいだったと思う(向こうの方が断然老けていたが)。
彼はガンプラ好きでデリヘル気違いの元証券マンで、自称「史上最年少宇都宮支店長」。彼と同じ持ち場になった当初は、彼の訝しむような表情にとっつき難そうな印象を持ったが、彼が話す内容はとても面白かった。

長くなるので詳細は書かないが、彼がまだ駆け出しだった頃に小さな取引を勧めたお客が実はかなりの金持ちで「1億2億とかいうならちょっとは考えるけどさ、O島くん人を見る目付けなきゃ駄目だよー」と怒られて青ざめたという話や、勝負の時には350万の金無垢のロレックスを着けて行ったという話や、部下の失敗で顧客の1000万円を溶かしてしまい、謝罪に行ったその脚で「倍にして返すので2000万僕に預けて下さい」と言ってその通りにしたという話や、毎日の外回りの際はデリヘルの梯子をしていたという話だ。

仕事の合間に、僕は彼の話を大笑いして聞いていた。
幾らか盛ってるに違いないとは思ったが、彼が話す証券マン時代の話は矛盾なくリアリティーがあった。まあ話術のない人がやれそうな仕事でもないし、おそらく大枠で言えば信じて良い話なのだと思っている。

他には、奥様の話もよくしてくれた。
奥様は青学卒の中国人だそうで、現在は中国に帰って「向こうで熱帯魚屋やらせてるんだよ」と言って熱帯魚ビジネスの管理の易さと上がりの大きさについて話してくれた。
とはいえ、はじめた当初は商売敵は皆無の状態で良かったが、現在は増えてしまい、以前のような利益はなくなったので店を閉めて奥様が日本に戻ってくる準備をしているという話だったと思う。

他にも色々と話したが、彼が話すことの多くはやはり証券マン時代のことで、威勢の良い話が多かった。
当時はかなり稼いだようだが、金無垢のロレックスはとっくの昔に売ってしまったというし、その時も会社の寮住まいで、それ程金を持っているようには見えない。
で、彼にいつか「なんでこんな仕事をやってるのか?」そして「なんで証券会社辞めたのか?」と聞いたことがある。

彼は、珍しく、まるで外れデリヘル嬢を引いてしまったが「チェンジ」とは言えないというような顔をして「9.11で株価暴落したときに顧客が何人か自殺したんだよ」と答えた。
彼はそれで仕事を辞めることを決めたのだそういってそうだ。

以下のリンクの記事には

日本で「経済や生活苦を理由とした自殺者の数」が最も多かったのは、2003年の8897人。この年は完全失業率が5.3%と前の年の5.4%と並んで近年では最も高い水準だった。その後、失業率は低下して自殺者も減るが、08年に発生したリーマン・ショックで再び状況が悪化。09年の失業率は5.1%に跳ね上がり、経済や生活苦による自殺者も8377人へと急増した。

とあり、さらに

日本の場合、失業率が1ポイント悪化すると、1000~2000人、自殺者が増える傾向がある。

と書かれている。
基本的に多くの人は他人の自殺について自己責任と片付けたがるし、死を選んでしまった人の苦悩には触れず、残されたものにだけ同情する人も少なくないようだ。

それにおそらく、コロナの影響で不況に陥り自殺した人が増えたとしても、それが一般に知らされる機会は少ないに違いない。
とはいえ、どっぷりビジネスやって多くの顧客や仲間を持っていた人であれば、きっと大島さんのような経験(デリヘルではない)に覚えがあるに違いない。
当然、コロナ禍においてもその向こうにいる自殺するかも知れない誰か、を想定しているだろう。

僕は何も、人命優先より経済を優先するべきだなんて思っていないし、人命優先が悪いだなんて考えてもいない。
しかし、経済政策がおざなりにされて経済不況に陥った中で、死という最大の損失行為を自ら受け入れてしまう人がいることついてもちょっとくらいは考えて欲しい。
そしてまた、経済不況でより辛い思い悲しい思いをするのは、貧しい人弱い人だということも考えてみて欲しい。

上のリンクによると4月8日12:00の時点で死亡者は81名。
この数があまり増えないことを祈るばかりだが、今後来ると思われる不況による自殺者は国内のコロナの死者数を上回るかも知れない。

コロナ禍の世にあって経済の話をする人は、命よりも金を優先させているのではなく、経済の向こうにある命、生活を心配しているのだ。

自分と意見が異なるからと言った理由で、他人を思慮の足りない浅はかだと考えるのはやめるべきだろう。

日本人がコロナをどう乗り越え、コロナ以降をどう生きるか。図らずも、日本人(だけではないが)は重大な局面に立たされている。


(「自殺」という行為、心理について興味のある方はこちらを↓)





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