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RINGO JAM LIVE vol.1 REPORT

マゼテモインジャネ?」をコンセプトに始動した株式会社Ridun(リズン)の「RINGO JAM」プロジェクト。りんご畑とりんごの新しい可能性を追求するこのプロジェクト。

2022年7月24日、弘前市石川のりんご畑の空の下、色とりどりの歌声が響き渡りました。

RINGO JAM LIVE vol.1

「りんご畑で音楽ライブがしたいね」

そんな話はずっとしていました。
「だってぜったい歌ったら気持ちいいじゃん!」
りんご畑という場所の気持ちよさ、開放感を、日々農作業しながら感じていました。
ただ、その農作業はりんごの木が相手で待ったなし。なかなか機会を見つけることができず春夏秋冬と季節が過ぎていきました。

「ライブするぞ!」

再び春が巡ってきた頃、弾き語りもするりんごの師匠のその一言で、第一回のRINGO JAM LIVEの開催が決まりました。もともと師匠も、会場となったヒビノス林檎園のりんご畑を購入する段階から「ここでライブするぞ」と言っていました。

そうしてあれよあれよという間に夏が来て、ライブ当日を迎えました。


見慣れない畑

いつものように軽トラで畑に向かっていました。車が何台かハザードランプを点滅させて畑の近くに停まっていました。まさかなあ、と思いながら、畑に続く入り組んだ小道を進んだ先に広がった光景に驚きました。

人がたくさんいます。積み上がった薪があって、バーベキューコンロがあって、テントがいくつか立っています。音響機材が並ぶ小さなステージがあります。ライブのリハーサルが始まっています。

スピーカーから流れる歌声、楽器の音色。

いつも来てる畑じゃないみたい。そう思いました。

車がどんどん畑に入ってきます。さっき畑の近くに停まっていた車です。演奏者の皆さんでした。ずいぶん迷ったと苦笑いしていました。

畑の入り口の手作りの看板を立てていると、りんご畑の奥から噴き出すように音楽が聞こえてきます。

わかりづらい場所で申し訳ないと思う反面、どこか人がいるところから隠れた場所に迷い込んでしまったような感覚を覚える、目立たない場所でひっそり行われる小さな音楽祭はどんな時間になるんだろうと思っていました。


偶然の賜物

天気はあいにくの曇り空。でもこの季節にしては、暑くもなく肌寒くもない、梅雨の終わりを予感させるちょうどいい気候。湿った草の匂いと炭の焼ける匂いが入り混じり、そよ風に乗って鼻の奥をくすぐります。

午後3時30分。ついに、RINGO JAM LIVE vol.1、スタートです。

会場ではこじんまりと物販もしていました。
チョコちょこさんのかわいい雑貨、野宮農園さんの朝獲れスイートコーン、ヒビノス林檎園のりんごジュース、RINGO JAMの自家焙煎したコーヒー豆。
また、会場に来てくださったみなさんには、販売しているコーヒー豆を使った水出しコーヒーや津軽あかつきの会のお餅がふるまわれました。

チョコちょこさんの雑貨たち。
ヒビノス林檎園のジュースやRINGO JAM coffee。

和やかにライブが進む中、お客さんたちはそれぞれ思い思いに過ごしていました。会場内に設置されたバーベキューコンロでお肉や野菜、スイートコーン、お餅を焼きながら、談笑する人たち。物販ブースに立ち寄ってお店の方と話す人たち。ステージから離れたところから、静かに音楽に耳を傾ける人たち。

野宮農園さんのスイートコーン。
肉!肉!肉!

お客さんの中には、ポスターを見てくださった方やもともと交流があって駆けつけてくださった方、7月上旬に畑で行なったバーベキューイベントで知り合った方がいました。RINGO JAMの運営会社である株式会社Ridunでインターンをしてくれた弘前大学の留学生3人は、友達をたくさん連れて遊びに来てくれました。

津軽あかつきの会の皆さんとヒビノス林檎園の園主永井。
留学生のみんな。

「音楽が聞こえたから」と、農作業の手を休めて近くの畑から来てくださった地元石川のりんご農家の方もいらっしゃいました。

りんご畑で音楽ライブ。ありそうでなかったコンテンツでした。

「なんでみんなやらないんだろう?」 

当初は無邪気にそんなことを思っていましたが、考えてみるとハードルはいろいろあります。音響機材はどうするのか、電源はどうやって確保するのか。演奏してくれる人、物販をしてくれる人に当てはあるのか。運営スタッフを集めることはできるのか。開催資金はどうやって捻出するのか。

そもそも、音楽ライブというイベントに適している、初めて来る人にとってもアクセスしやすい立地なのか。何よりもまず、周辺に畑を持つりんご農家の皆さんや地元の人たちの理解は得られるのか。

師匠野宮さん。

今回、RINGO JAM LIVEの開催にこぎつけることができたのは、本当に偶然だったんだろうなと、ふと思いました。

自分でライブを企画するほど音楽が好きな師匠と出会っていなかったら。90歳のおじいちゃんから譲り受けた今のりんご畑が最寄りの駅から歩いて5分のところになかったら。影でこのライブを支えてくれたスタッフのみんなが、うちの林檎園に来てくれていなかったら。

そう。ぜんぶ、偶然の積み重ね。

すべての仕事は、その評価の基準は良くも悪くもその成果物に重きが置かれているように感じます。農業もそのうちのひとつです。素人ばかりで始めたりんご畑の運営は、右も左もわからずあたふたする日々の連続でした。ずっと農業をしてきた人たちが、当たり前のようにやっていることを、僕たちは半分もできない。考えていたよりも農作業は、孤独で自分と向き合う時間が多く、先々の不安や昔々の後悔に飲み込まれてしまうこともありました。

でもやっぱり、初めてこの畑で迎えたりんごの収穫は、嬉しかった。誰にもほめられることなく、黙々と費やしてきた自分の時間が、報われたような気がした。自分の手でもいだ、獲れたてのりんごは、とても美味しかった。

点々と灯るスウェーデントーチ。優しく温もりある光を落とすランタン。そして、ステージ前で煌々と燃える焚き火。日が暮れ、オレンジの色の光が存在感を増していく中、ライブのトリを飾る最後のバンドの皆さんが、その音楽をりんご畑に響かせていました。

僕は目を閉じ、自然とそのリズムに体を委ねていました。りんごを収穫している時に感じた、静かな高揚感のようなものを、感じていました。

このライブで僕たちは、今ここにいるすべての人たちが、それぞれの人生で時間を費やし、耕し、育ててきた何かを、収穫させてもらっているのではないかと、思いました。そうして受け取ったものを糧に、僕たちは明日を生きていく。偶然の賜物を収穫する時があるからこそ僕たちは、その記憶に励まされながら、これからを生きていける。

最後の曲が終わり、大きな拍手と歓声が上がりました。

僕たちにとって、りんご畑で過ごした少なくない時間が、収穫とは違う形で報われたような、そんな音楽祭が静かに幕を下ろしました。


草の匂いがする音楽

ある演奏者の方がライブ中のMCの時にこんなことを話していました。

「コロナがあって、いろんなイベントが中止になって、歌う機会がなかなかありませんでした。3年ぶりに、こうやって、しかもりんご畑の中で歌うことできて、本当に嬉しいです」

りんご畑で聴く音楽には、草の匂いがしました。

聴く側にとっても、たぶん歌う側にとっても、気持ちのいいライブでした。

2022.7.27 
Photographer:佐々木梨乃
Writer:高橋厚史(office SOBORO)


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