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全然笑えないけども

ほろ酔いの帰り道、ホームレスの人をみて、友人たちが「怖いねえ」と言ったり、ネタにして笑ったりしていた。そこでわざわざ「ねえ、そういうこと言うのはよくないよ」と水を差して、お酒の入った楽しい雰囲気を壊す、なんてことは、さすがのわたしもしない。それに、しらふで真面目に議論でも始めれば、彼らだってそんなことを言わないってことは、わかっている。

それで、そのときはとりあえず「ああ…」と、曖昧に笑ってみたけど、本当は全然、笑えなかった。

ここの人たちでもそんな風に言うのか…なんてことを、酔っぱらった頭の中でぼんやりと思っていた。


たしかに、ホームレスを「危ない」と感じるのは、わかる。

今住んでいる地域には、ものすごくたくさんのホームレスがいる。実際に、歩行者に突然物を投げてきたり、自転車に乗っている人を襲ったり、物を奪ったりする人も、いる。そういう「事件」の通知が、大学から来たこともある。ホームレスがたくさん暮らしている公園には、特に夜には近づきたくないとは思う(そうでなくとも治安が悪いのだけれども)。

それから、変な掛け声をする人、奇声を発している人、おかしな格好や動きをしている人、狂ったようにみえる人……様々だ。

でも、彼らは悪者なんかじゃない。第一、色々な人がいるのは、ホームレスに限らない。家があったって、「やばい」ことをする人はたくさんいる。でも、むしろわたしたちと全然変わらない人たちもいる。

わたしが留学している大学には、図書館やキャンパスのどこかで暮らしている学生のホームレスがいる。きっと、優秀なこの大学へ来るために実家を出てきたけれど、国内屈指の物価の高さを誇るこの土地で暮らすお金までは準備できなかった人たち。それでも、勉強をするために、頑張っている人たち。事情は様々だろうけれど、頑張っている人たちだと、わたしは思っている。

でも、ここで言いたいのは、ホームレスがいい悪いということではない——「危ないことをしないホームレスもいる」とか、そういうことが言いたいわけじゃない。いわゆる「危険」なことをする人だって、わたしは悪者にできない —— もっと、個人的な気持ちの話を、ここに残しておきたい。

彼らをネタにして笑ったり、何も考えずに「怖いね」「危ないよ」と決めつけてしまうこと。深い意味で言っているわけでも、心の底から軽蔑しているわけでも、本心でもないかもしれないけれど。その場のノリでなんとなく、かもしれないけれど。わたしという人間は、こういう小さなことで、ものすごく悲しくなってしまう。

全然、笑えないなって思う。

こういう話をすると、「真面目だね」「えらいね」「意識高いね」なんて言われるけど、そんなつもりはさらさらない。わたしにとっては、普通の感覚なだけ。

感受性の問題なのかもしれない。

動物園で、狭いスペースにいる動物たちをみて、悲しくなってしまう。ホームグラウンドの試合で応援しているチームが勝った時、遠くから来たやや少なめの相手チームのサポーターはこれから長い道のりをどんな気分で帰るのかしらと思って、少し胸がきゅっとなったりする。そんなわたしだから、余計に、なのかもしれない。

とにかく、少なくとも、そういうことでゲラゲラ笑えるような人間でありたくないと思う。

生きようとしている人を、酔っぱらって楽しい雰囲気の中ででも、気やすくからかったり、少しでも馬鹿にしたりしたくないなあって思う。

だから、もし、本当は別に全然楽しくないけど、なんとなく誰かや何かを馬鹿にしてしまって、小さな小さな罪悪感を持つことのある人がいるのなら、「そういうときは、忠告せずとも、一緒になって笑わなくてもいいのよきっと」って言いたい。

そういうひとりごと。

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