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観劇メモ:橋からの眺め

PARCOプロデュースの舞台「橋からの眺め」2023/10/15 12時公演@京都劇場へ行って参りました。
この講演は9月の東京公演から始まり、福岡・広島・京都と巡ってきていて、私は大千穐楽の1公演だけの観劇です。
初見の感想なので解釈が足りない部分もあると思いますが、メモとして書いていきます。
※ストーリー展開バレありまくりです。

登場人物とキャストさん

エディ

主演は伊藤英明さん。舞台は13年ぶりだったそうですが、どっしりと貫禄を感じました。
エディの父性は、ストーリーの冒頭から「結構異常だな」と感じました。それは私が女性であり子どもがいないことによる感覚かもしれないです。(仮に私が「娘がいる父」だったら多少はエディに共感できる部分があったかも?)
狂人(繰り返しになりますが私の感覚です)を見事に演じていらっしゃって、伊藤さんの胆力を感じました。しかも13年ぶりの舞台でこの役か……しんどー!(笑)
私は演技ド素人で語れないんですが、役者さんは登場人物のキャラクタを自分に落とし込んで(人格に歩み寄って)表現されるのかなと勝手に思っていて、「このエディというキャラクタを落とし込むのムズすぎひん!?」と感じます。

ビアトリス

坂井真紀さん。落ち着いた声色が、大人の落ち着いた女性という雰囲気を押し出していて素敵でした。
ビアトリスは終始不満を抱えている人物だと感じました。怒っているようにも見えるけど、彼女はどこか諦めてるな~思います。諦めが大きいけど、そこに怒りの感情は確かに含まれていて、坂井さんは複雑な心のあんばいを表現されていると感じました。(ド素人がこんなこと言ってすみません)

キャサリン

福地桃子さん。今回が初舞台ってのが信じられないくらいパワーのあるお方でした。
私は座席が一桁列だったので、ミニ丈の衣装・スラッとした白いおみ足をダメな角度から見上げるような感じになって、なんか申し訳なかったです。(苦笑)
キャサリンはビアトリスの姉の娘(つまり姪)で、エディとビアトリス夫妻と同居して暮らしている人物ですが、幼さが目立ちます。夫妻、特にエディの前で、赤子のふり(何も知らないふり)を続けてしまった女性です。
キャサリンは学校を卒業してタイプライターの学校へ行き、成績優秀で就職の斡旋を受けているので、本来はなかなかに賢い女性だと思います。本当に「赤子のまま」だったのかどうかは疑いたくなります。無意識で赤子を演じてたのかもしれないです。
若いうちって、なぜか無知だと喜ばれがちだから、わざと馬鹿なふりをするときがあるんですよね(突然闇みたいなことを言いだすオタク)。その極めつけは、ロドルフォと初めて交わるときに「抱いて。教えて、私何も知らない」って内容の台詞を言ったこと。ヤバ!強~~!!と思いました。(「強」という字は、「したた(か)」とも読む…)

ロドルフォ

松島庄汰さん。直接拝見するのは初めてだったんですが、アミューズの俳優さんという認識(先入観?)で拝見したからか、顔を拝見した瞬間に「ああ顔がもうアミューズだわ」と思いました(?)。
劇場ロビーに松島さんのファンの方がお贈りになられたお花がいくつかあって、めっちゃちゃんとファンが付いている感じがすごかったです。
ロドルフォは衣装が短パンで、「脚が丸見えですが!?」ってドキドキしました。さっきも福地さんの脚のことを書いてしまったけど、別に脚フェチってわけではないです。でもファンの方は脚見れて嬉しかったのでは?劇中でお歌も歌うし、結構オイシイ役でしたね。
ロドルフォはビアトリスのいとこ。兄のマルコとともに職のためにアメリカに渡ってきた男です。キャサリンと恋仲になるのですが、エディからは結婚してパスポート(アメリカの市民権)を得る魂胆でキャサリンをたぶらかしていると疑われています。ロドルフォの中にその魂胆がゼロではない(完全否定されていない)ところ、このお話の「人間臭さ」が強くていいです。人間の「愛」は、純粋に愛だけで構成されているわけではないんだよなぁ…

マルコ

和田正人さん。私の推し俳優。お花を贈るような気が利くファンじゃなくてすまんかった。
マルコはビアトリスのいとこで、ロドルフォの兄。イタリアに妻と子供3人を残して、家族を養うお金を稼ぐためにアメリカに渡ってきた人物です。
おたく(私)は「また船に乗って移住する役なんかい!」と思いました。(舞台「歌うシャイロック」ではヴェネツィアで船に乗って駆け落ちしました。和田さんは2023年にご出演された舞台の2作品連続で「イタリアで乗船」したってわけ。)
ロドルフォは短パンなのにマルコはしっかりジーンズでした。和田さんは陸上競技をされていたので脚(筋肉)が綺麗なんですが…。なんか知らんけど今年は和田さんに舞台上から生尻を見せつけられてしまって(舞台「歌うシャイロック」)「違う、そこまでは望んでない」と思ったり、今回は「今度は隠すのね」と思ったり、おたくの心は複雑です。いや、まじで別に脚フェチではないので脚が見たいわけじゃなくて、綺麗な造形が見られたら「おっ♪」と嬉しくなるじゃないですか、それくらいの気持ちです。なんか脚のことばっかり書いてるけど脚に執着はありません。ほんとに。
ストレートに家族思いな男ですが、マルコの言動は物語の展開において結構キーになるというか「含み」を持っていて深いです。特に、エディが持ち上げられなかった椅子を持ち上げるシーン。エディがロドルフォにボクシングの練習と称してひどく当たるため、ロドルフォを守ろうとエディを威圧するために椅子を引き合いに出したわけですけども、ここで怒りをストレートに表さず我慢している分、その後のシーンでエディに唾を吐きかけたり刃を向けたりすることろで「限界を超えてしまった」さまがクッキリ出てました。

アルフィエーリ

高橋克実さん。ストーリーテラーとしての役割をされているので台詞が多い!
幕開け第一声、客席通路から登場されました。それを見た私は、他のキャストさんも通路を通ったりするのかな(ドキドキ←私の座席は通路に面していたため)、と思ってしまったんですが、客席を歩かれたのは克実さんの登場シーンだけでした。つまり、克実さんだけが「こちら(客席)」側を歩いたんですよね。後になって、これは演出として深いなぁと思いました。アルフィエーリは観客と同じく傍観する側の人間なんですよ、途中まで。物語に直接登場するまでは、客と同じ視点なんですよね。そりゃ、他のキャストさんは通路歩くわけがないわ。
アルフィエーリは弁護士ですが、法は万能ではないこと、弁論だけでは人間の激情を止められないことを受け止めて語っていらっしゃいます。
私は今回1公演しか観劇しなかったのですが、複数公演を観劇していたらアルフィエーリの語りにより意味合いを感じられただろうなと思います。

ストーリー

公式HPから引用します。

弁護士アルフィエーリによって語られ、ニューヨーク・ブルックリンの労働者階級が住む波止場が舞台。イタリア系アメリカ人の港湾労働者エディは、妻のビアトリスと17歳になる最愛の姪キャサリンとの3人暮らし。エディは幼くして孤児となったキャサリンをひきとり、ひたすら姪の幸せを願って育ててきた。そこへ、ビアトリスの従兄弟マルコとロドルフォが同郷のシチリアから出稼ぎ目的で密入国してくる。最初は、エディも歓迎するが、キャサリンが色男ロドルフォに徐々にひかれていくようになると、彼らに対する態度が豹変する。そして、自分の気持ちを抑えきれなくなったエディがとった最後の手段は……?

https://stage.parco.jp/program/aviewfromthebridge/

この書きぶりを読んで「ふーん、父親の子離れ葛藤的なお話か?」と思って観劇したので、最初のシーンから「ん!?!?!?」ってびびりました。仕事から家に帰ってきたエディに、ミニスカートを穿いたキャサリンが「見て!」「気に入った?」と訊ねたり、エディはキャサリンを膝の間に抱え込んでベッドの上に座ったり、ベッタベタのイッチャイチャ。「アメリカの家族ってこれくらい近いもんなのか?」とも思いましたが、物語が進むにつれて私の違和感が間違っていなかったことが分かっていきます。エディが姪を娘同然に溺愛しているようにも見えていた冒頭らへんなんて、全編見た後から考えれば可愛いもんです…。
ビアトリスも、夫と姪の異様な愛(これを愛と表現するのが正しいのかは分からないけれど…)には気付いてるんですよね。いよいよ黙っていられなくなったのか、ストーリーの中盤で、エディには夫婦関係について「もう三か月もない」と訴えかけ、キャサリンには「いつまでも赤ん坊じゃないのよ。あなたは一人の女なのよ」と家を出て自立することを促し「スリップ姿でエディに抱きつかないの」と露骨に忠告します。
このビアトリスがキャサリンを叱るのを聞くまでは、なんとなくエディが一方的に溺愛しているのかな~程度に思ってたんですが、これ聞かされたら「キャサリン、あんたそんなんしてたんかい!この事態はあんたが招いてるで!」と思い直しました。キャサリン本人は無自覚・無意識なんでしょうけど、エディの寵愛が心地よくなってしまっていて、いつまでも赤子で居続けていたように感じます。
外野の私は「ビアトリス、地獄やん。早よ別れ。な?」とか思っちゃうわけですけど、エディにもいいところはあるんでしょうね。ビアトリスはエディに惚れ込んでるのかな?どうなんだろう。まあ、この夫婦と同居している人は全員がビアトリスと血筋が繋がっているから(血で繋がっていないのは夫のエディだけ)、エディとビアトリスが別れたら全員行き場を失うし、踏み切れないのかな。

エディは姪の初恋(?)をゲットしたロドルフォをひどく差別します。髪色を揶揄したり、男らしくない・女みたいだと言ったり、働いて得たお金を貯めずに使っていることについて「おかしい」と言ったり、ロドルフォが何をしても気に食わないご様子。挙句は「ボクシングを教えてやる」とじゃれあうように見せかけてロドルフォをいたぶり、口で言うだけじゃなくて直接攻撃するまでにエスカレート。もう、悲痛というか、見ていられないというか、キツかったです。
ストーリーが進むにつれて、徐々に、確実に、エディのタガが外れていくんですよね。そこでストーリーテラーのアルフィエーリがダメ押しのように「まだ何も(事件は)起きていない」って言うんですよ。そうなんだけどさぁ、ほんと、そうなんだけどさぁ、しんど~!

それまでエディに一切逆らわずにいたマルコが(密入国してる自分と弟を匿ってもらっている恩があるからね)、いよいよ見過ごせなくなって「この椅子を片手で持ち上げられるか?」と持ち掛け、エディは持ち上げられず、マルコは静かに頭上まで持ち上げます。やば。抽象的なシーンですが、マルコはエディよりも強いということを表していて、エディのプライドをガッツリ砕いています。やば。能ある鷹は爪を隠す、といいますけど、本当に強い人はキレたときしか力を誇示しないってことでしょう。

ロドルフォとキャサリンが家で初めて二人きりになったクリスマス前の夜、キャサリンはロドルフォに「イタリアで二人で暮らす」ともしもの話を持ち掛けますが、ロドルフォにはアメリカを去るつもりがないことが分かります。キャサリンと結婚して市民権を得たいだけのようにも見えてしまうけれど、なんだかんだと愛を誓われ、はたから見てたらほぼ流される感じで(恋に溺れている感じで※あくまで私の感覚です)結ばれます。
このときキャサリンは「私何も知らない」とベッドでロドルフォを誘うんですけど、私は「キャサリン!お前、また!またお前!」と唸りました。罪な女ですね。この子は幸せになれるのかな…。
そこへ帰ってきてしまったエディ。ザ・修羅場。そうなるよね~。怒り狂ったエディ、ロドルフォをぶっ殺すんじゃ?とハラハラしていたら、なんとエディがロドルフォへ強引にキス!
ど、どういうこと!? 客席、度肝を抜かれて声出ちゃってる人がいました。出てもいいわ、みんな心臓跳ねたもんね。
エディとロドルフォのキスシーンについて、私はあまりうまく咀嚼できていないんですけど、エディはキャサリンの前でロドルフォを「女」扱いした、ってこと…ですか…?ロドルフォの男性性を否定する行動を取ったってこと?わかんね~~!

ロドルフォとキャサリンが結婚しようとしていて、二人の仲を引き裂きたいエディはアルフィエーリに相談しますが、法的手段は何もありません。寧ろ、「頭の中から(キャサリンへの愛を)追いやれ」「早まるな」と忠告を返されてしまいます。ロドルフォを責められる唯一の切り札が「密入国」しかないと理解したエディは当局に匿名で通報してしまいます。
ロドルフォとマルコは連行され、マルコがエディに対してバチ切れ。ビアトリスとキャサリンも、エディを蔑視。
エディ、法的手段に頼らない方が幸せだったかもしれないよ…。でももう止められなかったんだよな…どこにもブレーキがない…。
保釈期間中にロドルフォとキャサリンは結婚を急ぎ、結婚さえすればロドルフォは無事で済む一方、マルコは立つ瀬がない&もはや何も失うものがない状態です。アルフィエーリに「変な気を起こすな、何もするな」と念押しされたうえで保釈されますがマルコの心は決まっています。
マルコがエディへ恨みを込めて近寄っていくところ、和田さんの手にボトルが握られていて「血糊!!!」と悟ったおたく(私)、「血糊綺麗に飛べ!」と願わずにいられませんでした。千穐楽公演だし、もう血糊は飛ばし慣れてるに違いないのに願っちゃった。

ラストまで観た、観劇後の率直な感想。

カーテンコール

当日ツイートしたので貼り付けます。
伊藤さんの挨拶の前に、和田さんが足元を少し気にされていて「ん?どうした?」って空気になりました。床に血糊が飛んでいて踏まないようにされている感じでした。

橋isどこ?

この公演のタイトルは「橋からの眺め」なんですが、舞台に橋はありません。基本的に、エディとビアトリス夫婦が暮らす家(地下)の中で話が進んでいきます。舞台装置としての橋は存在せず、ストーリー展開においても橋の印象はありません。思い返してみれば、克実さんが冒頭のナレーションのときに橋とか言ってたような…、って感じです。(これ、私に理解力や観察力が足りないだけだけだったら馬鹿を露呈することになってめちゃ恥ずかしいな)
タイトルの「橋」は、概念ですよね、きっと。「こちら(客席)」側をと、「あちら(舞台上)」側の間に「橋」があって、「こちら(客席)」側から見ているから「橋からの眺め」というタイトルなのかなと思いました。

とーっても、ずっしりした内容の舞台でした!

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