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推理モノには死体がツキモノ

『彼女は死んでも治らない』 大澤めぐみ 読了レビューです。
ネタバレ:一部あり 文字数:約1,000文字


・あらすじ

 ミステリーを書きたいなら、まずは死体を用意するのが定石らしい。

 本作でも始めから死体が登場しており、その真犯人を探す流れだ。

 しかしどこか違和感を拭えない。

 普通に考えて、高校の入学初日から殺人事件が起こるはずないわけで……。


・レビュー

 大澤めぐみという作家は"奇妙な"話を書く。

 その認識があるかないかにより、本作への向き合い方も変わるだろう。

 私は著者の作品をいくつか読んだことがあり、本作は角川スニーカー文庫刊『君は世界災厄の魔女、あるいはひとりぼっちの救世主』と近い印象を受けた。

 雑な表現をするなら、良くも悪くも死体を"自由に"扱っているというか。

 『彼女は死んでも~』では表紙に描かれた人間が死ぬ。何度も死ぬ。

 普通なら人間が何度も死ぬなどありえない。

 生涯で1度しか起こらない大事件を何度も体験するのは、つまり普通ではないということだ。

 死んだ人間の生き返る作品として有名なのは長月達平『Re:ゼロから始める異世界生活』だけど、それはファンタジーの世界観だから実現しているわけで。

 現実ベースの推理モノにおいて、死んだ人間が生き返ってはならない。

 よって、本作は「ファンタジー推理モノ」として読むのが正しく、何度も殺されて生き返る方法についても、ヤボなことを考えないほうがいい。

 いきなり前触れもなく復活しているとか、逆再生みたく死体が治るだとかはない。

 ただ、生き返るにあたってのプロセスは奇妙そのもので、結末で明かされる事実にはひっかかるものがあった。

 死んだ人間を生き返らせるのは虚構を描くフィクションだからこそ可能であり、物語の必要に応じて人を殺す作品もまた、同じ論理でもって肯定される。

 真犯人を指摘する探偵が存在するため、とにかく死体を求めるのに抗おうとするような、どこか皮肉めいたものを本作から感じた。

 何度も死んだ人間を生き返らせる主人公、神野じんのが殺人に"慣れている"のも作中で引用される某・名探偵への疑問を呈するようで、おかしな設定の娯楽作品として、さっさと読み流すのはもったいない気がする。

 最後に本作1ページ目を引用して終わる。

 いい加減、殺人事件に慣れっこになっているとはいえ、扉を蹴破ってみたら首なし死体が逆さに吊るされているというのは流石に初めてでめちゃくちゃびっくりした。

「うわぁ! 沙紀ちゃぁん!?」

10頁
第1話 四月はドキドキの首なし密室




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