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くさいものにフタをしても消えません

『すごいゴミのはなし ゴミ清掃員、10年間やってみた。』
文:滝沢秀一 絵:スケラッコ、萩原まお
読了レビューです。
文字数:約1,600文字 ネタバレ:一部あり

・あらすじ

 人が生きていればゴミがでる。

 老いも若きも男も女も、すべての人がゴミをだす。

 ゴミは汚くて、不潔で、世界から不要なもの。

 そんなゴミに対する偏見を捨てる1冊になるかもしれない──。

・レビュー

 お笑いコンビ「マシンガンズ」の滝沢秀一さんについて知ったのは本業ではなく、ゴミ清掃員としてだった。

 ある日にラジオを聴いていると滝沢さんが出演し、ゴミ清掃の体験などを話していく中で、驚くべき実態を知った。

 ゴミの最終処分をする埋め立て地が、あと20年くらいでなくなります。

 それを耳にしたとき、すぐそこまで限界が迫っていると感じたし、さかんにSDGsを宣伝するより効果があるように思えた。

 令和3年版の環境・循環型社会・生物多様性白書によれば、家庭ゴミの一般廃棄物について次のように書かれている。

 2019年度末時点で、一般廃棄物最終処分場は1,620施設(うち2019年度中の新設は12施設で、稼働前の9施設を含む。)、残余容量は99,507千m3であり、2018年度から減少しました。また、残余年数は全国平均で21.4年です。

第3章 循環型社会の形成 第1節 廃棄物等の発生、循環的な利用及び処分の現状
より

 本作が刊行されたのは2022年の7月で、おそらく令和2年を参照した残余年数は22.4年となっており、しっかりと1年分が減っている。

 これを「まだ20年以上ある」とするか、「もう20年くらいしかない」とするかを議論したところで、将来やってくる現実には変わらない。

 核のゴミも最終処分地が決まらないまま、原子力発電所の新増設をするというのは、くさいものにフタというか、むしろ考えないようにしているのかもしれない。

 ◇

 前に外国のドキュメンタリー映画で「PLASTIC CHINA」という作品を観た。

 そこで描かれるのは中国でプラスチックゴミを収集し、リサイクルすることで生計を立てる家族の姿だ。

 国内で出されたプラスチックかと思いきや、彼らが集めたプラゴミの中には日本語が書かれたものも数多く、資源として日本から輸入されたものだと分かる。

 日本でも大戦前、アメリカの鉄くずを資源として輸入することで鉄製品を作っていたそうで、近年に現れた新しい話というわけでもない。

 問題なのはプラゴミを「資源」として輸出する日本の姿勢であり、それをリサイクルする彼らは、小規模どころか粗末な設備で行うことで、ガンなどの様々な健康被害を受けている。

 日本がプラゴミを輸出する理由はリサイクルにかけるコストが、新しく作るより高くなって採算が取れないためで、くさいものにフタどころか他国に押し付けた格好だ。

 現在、中国はゴミの輸入を禁止しており、先のドキュメンタリー映画の衝撃によるものと言われている。

 プラゴミ以外だと古着を資源として輸入している国で、やはり現地の環境や服飾経済を破壊するといった問題が生じているそうだ。

 ◇

 本作は10代向けの読みやすい構成になってはいるものの、そこで語られるのは私たちがゴミを軽視してきた事実と結果に違いなかった。

 要らなければ捨てて新しく買えばいいし、分別も面倒だから全て燃えるゴミにすればいい。

 そうした姿勢は一見するとムダがなく、その人の周りだけは美しく保たれる。

 始めに紹介したラジオ番組にて、滝沢さんは次のようにも話していた。

 ゴミって燃やしても灰が残るから、完全にはゼロにならないんです。

 言われてみれば私がキャンプでよく使う木炭なども灰が残り、それを灰捨て用の缶に入れている。

 捨てるためのゴミ袋が有料で、指定されたもの以外は使えない地域もあるし、今は収集が無料の地域においても今後どうなるか分からない。

 大掃除をする人の多い年末だからこそ、そうした問題を考えるきっかけになればと願っている。






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