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やがてΔを描くものたち

『デルタの羊』 塩田武士 読了レビューです。
ネタバレ:なし 文字数:約1,200文字

・あらすじ

ソフトメーカー東洋館とうようかんに勤める渡瀬智哉わたせともちかは、アニメの「製作」に関わっていた。
一方、文月隼人ふづきはやとはフリーのアニメーターとして、アニメの「制作」に関わっていた。

どちらもアニメに関わる人間だったが、2人の線は永遠に交わらないかに思えた。

しかし、小説『アルカディアの翼』のアニメ化企画が動き出したことで、渡瀬と文月の引く線に変化が起こる。

やがて2人の線と『アルカディアの翼』が交わり、収束していく。それはまるで、美しいΔデルタを描くかのように──。

・レビュー

羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹、羊が…………。

『デルタの羊』は世界に迫る危機を前にして、とある少年が伝説の空飛ぶ羊を捕らえることで、人類を救おうと奮闘する作品です。

ええ、もちろん冗談です。

表紙の絵から想像するファンタジー世界が描かれるかと思いきや、そういった部分は全体から見れば一部に過ぎません。

本作は冒頭で書いたようなフィクションを、アニメとして作り出す人々の物語です。

そもそも「アニメを作るとは何か」という疑問がある方は、参考文献として記載されているアニメ『SHIROBAKO』を視聴してくだされば、きっと余すところなく解決します。


本作の主役と呼べる2人の登場人物のうち、実際にアニメを「制作」する側にいるのが文月で、それを作品化して世に届ける「製作」に渡瀬がいます。

同じ業界に籍を置く2人ですが、自動車でいうところの工場と販売店のような立ち位置であるため、本来なら出会うはずがなかったのです。

しかし、小説『アルカディアの翼』のアニメ化が決まり、渡瀬がその製作に関わっていきます。


アニメに限らず、何かしらの作品が作られる情報について、私たちはテレビやwebといった、各種メディアを通して知ることになります。

制作決定が発表される際には、すでに出演者や制作会社などが決まっている場合もあれば、そうでないときもあります。

渡瀬のする製作とは、その部分に当たります。

表からは見えにくいながらも、文化祭でアニメーション研究部、略してアニ研の部員たちが制作するものとは次元が違います。

多くの人員と予算、それに労力が必要な、まぎれもない「ビジネス」であって、赤字を出すわけにはいきません。

ふたたび自動車を例にするならば、工場の立つ敷地や設備などを決めないと、車を生産するなど不可能なのです。


作品そのものを良くするのが、制作の側にいる文月です。

マンガならともかく、小説に付いているのは挿絵くらいですし、映像には動きを与えねばなりません。

かといって求められる性能に応じて設計し、大量生産するわけではありません。

作品ごとのオーダーメイドで制作されるわけですから、ちょっと考えるとスゴいですよね。


渡瀬と文月の2人が目指すもの。

それは、

アニメ最高!

その一言に尽きるのだと思います。

・おまけ


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