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「男女のラブコメ」と「百合」の二刀流はコミックキューンを救えるのか

 突然だが、コミックキューンという漫画雑誌をご存じだろうか。Wikipediaの当該記事から引用して説明すると

『月刊コミックアライブ』2014年10月号において同誌の100号記念企画として雑誌内雑誌の形式で掲載され[1]、次号以降も毎月掲載が続いた。 そして、同誌2015年8月号において独立創刊が発表され[2]、同年8月27日に独立創刊した。

という過程で創刊され、現在までの約6年間の間に『パンでpeace!』『にゃんこデイズ』『ひなこのーと』『となりの吸血鬼さん』などのタイトルを輩出している。毎号タイトルの上に「あなたのために作った、かわいい4コマ誌」というキャッチコピーが掲載されていたことからも分かるように、ジャンルとしては「4コマ漫画誌」に分類されていた。しかし、掲載作品から4コマ色が薄まるにつれて、2020年8月27日発売の創刊5周年記念号(10月号)より、キャッチコピーを新たに「あなたのために作った、かわいいコミック誌」に変更した(公式Twitterではまだ「~4コマ誌」のキャッチコピーを使っているのだが…)

 また、創刊当初より連載されてきた作品のうち、2020年11月号で『にゃんこデイズ』(創刊号より連載)と『俺んちのメイドさん』(2015年10月号より連載)が完結。本誌の百合路線の代表的作品であった『明るい記憶喪失』(2016年10月号より連載)も2021年2月号で、本誌の顔とも言うべき『ひなこのーと』(創刊号より連載)も2021年3月号で完結した。そしてここまで本誌を支えてきた『となりの吸血鬼さん』(創刊号より連載)が2022年3月号をもって完結することになり、コミックキューンは大きな転換期を迎えようとしている。いや、既に迎えているのかもしれないが、本稿では、そんなコミックキューンがこの先どうなっていくのか、2021年10月号で創刊6周年を迎えた今こそ、その将来を論じていきたいと思う。というか後半は今回新連載の2つの百合作品の感想を書いているだけである。宣伝である。

 なお、筆者は創刊当初からコミックキューンを購読している層ではなく、2017年の2月号から読み始めた、とどのつまり古参でもなんでもないので、薄っぺらい人間が書いたチラ裏程度に見てもらえば幸いである。

・4コマ漫画誌からの脱却

 さて、キャッチコピーの変更について軽く触れたが、本誌は元々4コマ漫画をメインに据えていた雑誌である。しかし、最新号である2021年10月号の掲載内訳を見てみると、厳密な4コマ漫画と言えるものは、となりの吸血鬼さんを覗けば最古参である『ありすorありす』しかないのではないか。

 といいつつも、この辺りは或る1号分を見ただけで判断することは出来ない。コミックキューンの特徴として、毎号毎号作品のスタイルを変えて掲載するパターンが非常に多いからである。例えば、『俺んちのメイドさん』は、普段は1ページ1話の4コマ形式を取っているが、時折自由なコマ割りの漫画を描いていたし、コマ割りだけ1ページ4コマにして、普通に漫画として展開していく作品もある。4コマらしさはのこしつつ、1話1話ごとの起承転結という要素がかなり薄まっているのが特徴である。

 1ページ1話の4コマ形式を取ることで、作者は様々な表現方法を採ることが出来る。途中のコマを半分に分けて5コマ以上にしてもいいし、逆に3コマ目と4コマ目を合体させて3コマ漫画にしてもいい。4コマ形式で数ページ使った後は自由なコマ割りで、重要なシーンや印象的な場面を描いてもいい。この自由度がコミックキューンの売りともいえるが、それ故に端から「4コマ雑誌」と銘打っていくのは中々に難しいものがあったと言える。

 しかし2017年2月号を見返してみると、その殆どが4コマ漫画の体裁を取っていることが分かる。というか掲載23作品の全てにおいて、少なくとも1話の半分程度は4コマ形式で掲載していたのだ。まさにキャッチコピー通りの「4コマ誌」である。

 2017年4月号からは日常系4コマ漫画の総本山ともいえるまんがタイム系列の『まんがタイムきららMAX』にて『軍師姫』を連載していた吉野貝の新作『魔王が宿屋をやっていぬ。』が始まるなど、その路線は続くかと思われた。だが、2017年後半~2018年前半の新作・移籍ラッシュにおいて、『あやかしこ』『ごっどちゃんず』『ニー子はつらいよ』『今日どこさん行くと?』など、一気に非4コマ作品の濃度が高まると同時に、既存作品も4コマと非4コマを折衷したような造りがメインとなり、一気に4コマ誌としての体裁を失っていった。

 では何故、2017年から2018年の間で、4コマ誌から非4コマ誌への転換とも言うべき状況が作り出されたのか。これはあくまで私の予想でしかないが、所謂「日常系」をべ―スに「百合」を足したような、まんがタイムきらら系の後追いであった状態から、日常系、百合、異世界、ファンタジー、エロティック、ご当地モノ、そして普通のラブコメと多様なジャンルを内包した、特定の層に向けた雑誌ではなく、一般コミック誌として万人受けするタイプへの雑誌へと脱却を図ったのではないかと思う。

 2017年前半までの通して日常・百合系作品の新連載を相次いで発表したにも関わらず、2017年6月号からの編集人交代を経て、以降一般的なラブコメやお色気作品が増えたのも、やはりこの時期誌風を大きく変更した証左になっているのではないだろうか。

・読者層のバランスと新規連載作品について

  さて、そんなコミックキューンだが、最近はどうにも人気が低迷しているように思える。2018年秋クールの『となりの吸血鬼さん」以来アニメ化した作品は無いし、となりの吸血鬼さんの完結を控える今、次の看板作品が何かというと、そこまで本誌の顔と言えるほど長期連載かつ人気の作品は無いように思える。

 もう愚痴になってくるのだが、Twitterの更新間隔は徐々に開き、フォロワーの伸びもほぼ停滞している。読者コーナーが無いから読者の感想が誌面上で分からないし、作家さんや作品を掘り下げる場所も無い。毎号のようにポスターやグッズを付けてくるが、一体何を基準にして作成しているのか分からない。「あなたのために作った」と銘打てるほど読者の声を拾っているのだろうか。

 さて、現在(2021年9月時点)本誌で人気の作品と言えば、恐らく『拝啓・・・殺し屋さんと結婚しました』『竜ヶ崎櫻子は今日も不憫可愛い』などが挙げられるのではないか。この二作品は2021年11月号でダブル表紙絵を飾ることにもなっているし、実際掲載順も毎月前から2-3番手である。この二作品はどちらも4コマに近い形の形式を採用しており、いわばコミックキューンの本流であった作風である。

 この二作品はどちらも一般的なラブコメディ、つまり男女の恋愛(片方は結婚してるけど)を扱っている。では本誌で当初勢力を保っていた「百合」作品はどうだろうか。

 『世界で一番おっぱいが好き!』は連載期間が約4年と長く、知名度はあると思うのだが、展開の停滞や掲載量のばらつきがあるなどいかんせんマンネリ感は否めない。『わたしのために脱ぎなさいっ!』は余りにもエロティックに寄せているし、『あなたがわたしを照らすから。』は連載が開始して約半年であるが、正直中々波に乗れていないと言わざるを得ない。

 「きらら」にも「百合姫」にもなれない以上、コミックキューンはオールジャンルを目指していくしかない。創刊当初からの日常系・百合系を望んで購入し続けている読者も、4コマ路線から脱却し、お色気や男女のラブコメを好きで購入している読者も、どちらの層も引き留める、あるいは流入させ続けなければならない。先述の人気2作品は「日常系」の要素も含んでいると考えれば、次は「百合」の人気作品を作るしかないのだ。この流れで10月号より「どれが恋かがわからない」「リリィ・リリィ・ラ・ラ・ランド」の百合2作品を投入したのではないかと私は考える。

・テンポの良さと展開の覚えやすさはピカイチ。奥たまむし「どれが恋だかわからない」

 奥たまむし先生は2016年10月号から2021年2月号まで、話題作『明るい記憶喪失』を本誌で連載していた実力派。主人公とヒロイン5人全てを紹介するという一見駆け足に見える1話も、冒頭のカラーページで主人公の「彼女を作るために大学に入った」という動機を提示していることや、それぞれ主人公、ひいては読者もヒロインを「好き」になるようなインパクトのある展開が目白押しなので、楽しみつつも理解しやすい展開になっている。時系列巡にヒロインとイベントを紹介していくのも、登場人物を覚えやすくて大変良い。

 大学入学初日に頻発する出会いという「運命」的な展開は、時折表示される時間の描写によってさらに「運命」感が出ているし、一癖も二癖ありそうなヒロインの面々とこれからどのような「恋愛」をしていくのか、大変気になる作りになっていると感じた。

 とにかくテンポが良く、1話目は41ページと中々のボリュームながら軽快に読み進めることが出来る。それでいてヒロインとの絡みは濃密としか言いようがないのだから、そのバランスは流石奥たまむし先生といったところである。

・世界観が伝わってくる描き込み量。守姫武士「リリィ・リリィ・ラ・ラ・ランド」

 守姫武士先生は2018年6月号から2020年3月号まで『カリンちゃんは魅せたがり』を本誌で連載し、過去にはまんがタイムきららMAXで同じく日常・学園百合作品を連載していた経験がある。

 まずカラーで見開き1ページ使った表紙の美しさ、そして厳かな校舎と桜吹雪の上に話タイトルの提示、という導入部分で一気に本作の世界に惹きこまれる。お嬢様学校に「お茶会」「七不思議」「パートナー制度(本作では「番い)」と王道の要素盛りだくさんで、「純粋な」百合が楽しめる。

 主人公の灰掃小咲(けわき・えみ)も、お嬢様学校の中で庶民的、心優しく清純な部分はまさに名前の通り「シンデレラ」的なまさに王道キャラクター。そんな小咲がヒロインであるお嬢様5人と共に七不思議、そしてその裏にあるであろう何かに巻き込まれていき、その過程を通じて真のパートナーに見つけていくという展開になるのだろうか。読者は学園の謎を予想するもよし、高い画力で描かれた耽美な学園世界を満喫するもよし、推しのペアを作るもよし、と楽しみ方は無限大である。

・結論・おわりに

 6周年を迎えたコミックキューン。創刊時から掲載していた作品が徐々に終了していき、レーベルをしょって立つ代表的な作品が明確に提示できなくなってしまった。新たな看板作品を探しつつ、これまで本誌を支持してきた「日常系・百合系」が好きな層と「男女のラブコメ」を支持する層のどちらも保持しなくてはならない。そこで投入した今回の百合2作品は、どちらもクオリティが高く、将来的に人気作となる要素は十分に持っていると感じた。

 しかしながら、オールジャンルで読者を保持するという作戦は決していいとは言えない。コミックキューンとして明確な路線を提示しなければ、結局のところどっちつかずで「きらら」「百合姫」の後塵を拝する結果にしかならないのだ。本誌のテーマである「カワイイコミック誌」というのも、言ってしまえば多くのコミック誌に共通するものに聞こえるし、そういう意味ではそれ自体が他誌の後追いに他ならない。他誌に対抗するにあたって、明確な軸を提示することは急務であるといえる。

 ここから本誌が勢力を挽回するには、やはりまず読者の声を聞くことではないだろうか。読者の声を掲載したり、作家への質問やその解答を掲載することでコミックキューンという雑誌と読者との距離感を縮め、作品単体ではなく本誌の「ファン」を増やすのである。SNS上でそのようなことをするのもいいかもしれない。

 初めに書いた通り、私は創刊時からコミックキューンを購読しているような古参でもなんでもない。正直今購読している理由の一部に惰性があるかと言われれば認めざるを得ない。それでも、数年間本誌から貰った「楽しい」時間を考えれば、今後の繁栄を祈らずにはいられないのである。

 というわけで、出来るだけ短く纏めようと思ったが結局5,000字程度になってしまった。だらだら書いていたらもう11月号の発売日にもなってしまったが、まぁその辺はご愛嬌ということで。

 それでは、駄文失礼しました。

 

 

 

 

 

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