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百合姫読切感想・考察集14『2022年6月号読切寸評編』

 ※ヘッダー画像はみんなのフォトギャラリーより、「ia19200102」様の作品を使わせていただきました。この場を借りて御礼申し上げます。

 GWが終わると、後は夏まで一直線というように、徐々に暑さが厳しくなるばかり。吹く風は暖気を帯び、頭上の太陽は日増しに大きくなっていく。

 そういえば、百合姫に連載している作品の中には、夏が舞台のものも結構多いように思う。6月号新連載の『夏とレモンとオーバーレイ』にしろ、話題の『君と綴るうたかた』にしろ、ひと夏の恋愛というものはやはり題材になりやすいものなのだろう。まぁ、それは百合というジャンルに限らない話ではあるが。

 と、こんなことを書いてきたのだが、今回感想を書かせて頂く6月号に掲載された6本もの読切のうち、夏を舞台にしたのは1本しか無い。なんかうまい導入にしたろと思って失敗したパターンである。

 ということで、折角6本も読切が掲載されたので、どれか1作品に絞って感想を書くのも難しい...ので、6本全ての感想を短めに書いていくことにする。いつも短めにと意識して冗長な文章しか書けていないので、その辺気をつけながら頑張って書ければ...と思う。

・流石のレベルの高さ『せんせー!オトナな恋しましょ!』

 なんと言っても可愛らしい少女漫画風の絵とデザインに目を奪われる。作者の遠山えま先生は、少女漫画雑誌「なかよし」(講談社)連載の『わたしに××しなさい!』などの作品を持つ有名作家で、現在も同雑誌に連載作品を持っているだけあって、この洗練された絵のタッチや描き込みは一段飛び抜けたレベルである。さらに大ゴマの使い方はシンプルながらも上手く、登場人物の感情が動くシーン、読者の心が「キュン」となるシーンをさらに効果的に演出している。

 その一方で4コマ漫画雑誌「まんがタイムファミリー」(芳文社)でも長期連載していただけあってか、軽快かつ纏まりのいい展開も見事である。1ページ目から2ページ目にかけての導入部分はまさにその良さが出ている部分であり、1コマ目から4コマ目までを切り抜いて、1本の4コマ作品としても納得するほどテンポが良い。

 個人的に良いと思った点は、「名前呼びをしない」点と、「告白シーンの構図」である。前者は美菜・真菜が最後まで山根先生のことを名前で呼ばないことで、先生と2人の(そして園長先生と鷹羽さんの)恋愛の原点がしっかりと描かれているように感じた。恋者は山根先生が2人に告白するラストシーンで、作中で多く使われていた美菜が右、真菜が左という構図の逆になっている。これは2人の外見的特徴である泣きぼくろを見せない構図にする事で、山根先生が2人の内面を好きになったことを表しているのではないかと思う。このシーンは大人な恋愛に憧れていた山根先生の妖艶とも言える表情と、大人のレディになると言っていた2人のあどけない表情の対比が素晴らしく、まさにクライマックスにふさわしいシーンになっており、必見の出来である。

・王道の設定と王道のキャラクター『バズーカを持った天使』

 無許可で活動する「恋愛相談部」を堅物な生徒会長が止めに行くというストーリー、ふわふわ系でエイムが苦手な天使、実際は色恋沙汰にも興味はあるが、秩序を重視するあまり嫌われやすいポニテ生徒会長といったキャラクターと、良く言えば王道、悪く言えばありがちな設定のオンパレード。全体としては破綻もなく、おおむね予想通りな展開が続くと言った感じ。『バズーカを持った天使』というタイトルながら、バズーカが作品に個性を与えたとは言い難いのではないか。

 個人的には可もなく不可もなくという感じだが、爆発力が無い分、可愛らしい絵は安定感があり、デフォルメも作品の雰囲気を作るのに一役買っている。読切よりも連載でこそ真価を発揮するタイプの作品だと思うので、長い目で見たい作品であった。

 蛇足になるが、主人公の名前の文字について、1ページ目の名乗りの際に吹き出し内に書かれたものと、ラストシーンの入部届に書かれている文字が違う。どちらが正しいのか、なんなら入部届に書かれている方の字は調べても出てこなかったのだが、実際ある文字なのだろうか。正しいのは「沙耶」であり、どちらも間違って書いてしまったとか...?

・キャラクターを引き立たせる演出の巧さ『teeny-tiny-identity』

 主人公「ゆりか」の描かれ方がお見事。ゆりかが「自分らしさ」とは何かを見つけていくお話であるが、その主題を読者にも考えさせるように、多くのページでゆりかがコマを飛び出して描かれている。読者をゆりかの言動に強く注目させ、その表情を見せつけることで、ゆりかの心情の変化をより読者に伝えているように感じた。特につきちゃんからイヤリングを貰った時の「単純だよね」と言いながら笑う表情は、まさにその時の嬉しさ、楽しさといった感情が伝わってきた。

 また、つきちゃんのデザインも好き。ボーイッシュさと女性らしさを兼ね備えており、まさに王子様。派手すぎないデザインの中、デートシーンで耳元に着けられたハートのピアスが演出する「女性らしさ」がお見事。そのピアスも作中のセリフから、恐らくゆりかから貰ったものというのもいい。なお、王子様という愛称を使うことで、ゆりかの友人として登場する2名からの名前呼びを回避し、不自然な名前の提示をしないという構成も巧いと思った。

 他に、ゆりかがつきちゃんからイアリングを貰うシーン。表情に関しては前述の通りであるが、「小さいこと」にコンプレックスを抱いていたゆりかが、指でつまむような小さな袋に入ったイヤリングに惹かれているという構図も良いと思ったし、イヤリングを渡す時につきちゃんが袋の下に手を添えているのも、「あったかくて優しい」つきちゃんが演出されていていい。

 「自分探しの旅」をするゆりかと、それを見守るつきちゃんといった表紙から、ラストのつきちゃんへの軽い独占欲が出るシーンまで、非常に構成力・表現力に秀でた作品であった。癖の無い細めのイラストは万人受けすると思うし、ライトな百合が好きな方は是非読んでほしい。

・主人公の心情の変化を見事に描いた良作『秘密。』

 委員長×ギャルという説明不要の王道百合。まずはボタンを縫うシーンの表現が見事。教室という広く静かな空間の中で、「プッ」という針を通す僅かな音がしっかりと2人の耳に聞こえているという描き方が良い。苦手な廣瀬さんと2人きり、そんな彼女からの意外な申し出といった状況でただでさえ緊張している中、その微かな、しかしはっきりと聞こえる音は委員長の目線の置き場を向けさせるのに十分だっただろう。そこから「左利きなんだ」という気づきに繋がっているのではないか。

 「ギャル」「うるさい」「苦手」「怖い」というレッテルを貼っていた廣瀬さんが、「ソーイングセット持ってるんだ」「左利きなんだ」というイメージしていたものとは違う要素や、無意識に決めつけていた要素を崩す事実を知ることで、「ちゃんと見たことなかったけど」と初めて廣瀬さんを正面から捉える機会に繋がってくる。

 その後、主人公が心の中で「ドキドキしてきた」→「これは針が刺さらないかドキドキしているのであって」と言い訳をするシーンは所謂「ヤンキーが捨て猫に優しくするのを見ると急激に好感度が上がる」現象と同一で、悪印象を持っていた廣瀬さんへの評価が一気に変化することで、主人公の中で廣瀬さんの存在が急激に大きくなっている故の現象であると思う。この言い訳シーンがなんとも初々しいというか、まだどんな種類の感情とも言えないが、ただ心の中を何がが占めていく、といった感じがしてとても好きである。

 家に帰るまでの主人公の表情もいい。廣瀬さんと別れてからとにかく上の空だったことが窺えるようなあっさりとした表情。きっと塾の内容も覚えていないし、帰り道何があったかなんて記憶にないだろう。そして母親からの指摘で、一拍間を置いてからの「もう少しこのままでいい」というセリフ。少し目線を落として、しかし逡巡することなく言い切るのが素晴らしい。ボタンについて母親から指摘されたことで、現実と空想との間にあったようなあの出来事が記憶として蘇り、未だ定まらない感情を確かめるように、そしてその感情を隠すためのこのセリフと目線ではないか。先ほどの「ドキドキ」とは違う、「明日も会える」という明確な思いから発生する「ドキドキ」に、思春期特有の甘酸っぱい感情の変化や、さまざまな評価が入り混じった廣瀬さんへの想いを感じて、読んでいるこちらまで息が詰まるようであった。

 個人的に、「頬に睫毛の影が落ちる」という表現や、細い線で書かれた目や目元という繊細な画風的に、主人公がかく汗の描写がやや大きくデフォルメすぎるのではないかと感じた。まぁその辺りは私の好みもあると思うし特に気にするところでもないだろう。ページ数は少なめだが、確かに残る濃厚な読後感が素晴らしい。特に教室のシーンは作中の時間と読むのにかかる時間が同じように感じられ、主人公目線でのコマも多々あることから、是非主人公の気持ちになりきって読んでいただきたい。

・考えられたネタと秀逸なオチ『鈍感霊感少女』

 徐々に読者を引き込む作りがお見事。序盤はオカ研部員との軽妙なトークで作品の流れを作り、中盤では2人の関係を紹介しつつ、霊障の反対のような「幽霊の気に障る」といった言葉選びの面白さがあると思えば、ファブリーズネタのようなネットが元ネタの話を勢いのある絵で表現するなど、数ページごとに違った方向性の面白さを魅せてくれる。

 そして胸を強調したあきらの大ゴマ、からのまさかのオチ。正直このオチは予想していなかったのだが、読み直せば伏線のようなシーンやセリフがしっかりと埋め込まれているし、まさに緩急自在の作品であった。どこか少女誌的な画風も最後のあきらの大ゴマシーンをより印象強くするのに一役買っており、全体の完成度は非常に高いと言えよう。

 オチのシーンを深読みすれば、にーちゃんの左腕に付けられている数珠の意味は、正式な数珠は108個の珠であり、108の煩悩を断ち切るという意味があることから、霊に対抗するためにつけていた数珠が実は自身の性欲を抑えていた、という解釈が取れる。また、あきらが身につけている女の子の豚のキーホルダーやスマホカバーは文字通りメスブタを表し、あきらに対してのにーちゃんの性欲を表しているのかもしれない。と、一応申し訳程度の考察要素も入れておく。

・強烈なキャラクターに負けない重いストーリー『水泡を掴む』

 やはり夢野のキャラクターが強烈で記憶に残る。先の読めない行動はもちろん、独特の台詞回しに表情など、とにかくこのキャラクターが常に作品の中心にいる。しかし「人魚姫に魔法をかけた魔女の弟子(親戚)」という濃い背景も手伝ってか、突拍子も無い行動でもなんとなく受け入れられる「説得力」じみたものがある。

 その反対に、主人公であろう葦原のキャラクターは弱め。もちろん葦原は夢野に振り回されるポジションであるのだが、それでも序盤で海に飛び込んだり、最後の決め台詞である「結婚しろ」といった告白シーンなどの行動がどうしても強引な感が否めない。また、デザインから中性的で、この画風では外見的な意味での百合と捉えにくく、正直知らずに読めば百合と思わない人もいるのではないだろうか。

 この話の面白い部分は、夢野が人魚姫に憧れている、という部分ではないだろうか。夢野は人魚姫と違い、足を代償なく得ることが出来、魔法も使え、いわば恵まれた存在である。そんな彼女が人魚姫に憧れて、真実の愛を叶えることが出来なければ泡となり消えるという魔法も自身にかけたというのも、そこにどの程度の覚悟があったかは疑問である。また、愛する王子を殺せずに泡となる運命を受けれいた人魚姫に対して、夢野はいつでも殺せると言い放ち、殺さなかった理由もまた身勝手なものであった。200年で生きるのに飽きたというのも、元々の人魚(姫)の寿命が300年なことを考えれば長いとは言えないし、飽き性だからというのは言い訳にしか聞こえない。そんな夢野に対してだからこそ、葦原の「死ぬ理由にまで私を使うな」という言葉は図星でクリティカルヒットしたことだろう。こんな(といっては失礼かもしれないが)夢野がハッピーエンドと言っていい結末を迎えたというのが、ある意味で1番面白いところかもしれない。

 個人的には、人魚姫に題を取り独自設定を大きく入れ込んで独特の世界観を構築しており、特に夢野というキャラクターの強さはなかなか作れるものでは無いと思うほど出来が良かった。正直評価のベクトルに困る作品であったが、あえて言うなれば物語部分の練り込みはまだまだ甘いと感じたので、その辺りの進化に期待したい所である。

・終わりに

 なんとか書き終わった。
 なに素人が偉そうな講釈垂れとるんじゃと言われそうな部分もちらほらだが、実際素人のうわごとのような文章なので笑って許していただきたい。

 あえて1番面白かった作品を選ぶとすれば『秘密。』だろうか。読切短編としての「どこまで描いて、どこから描かないか」というバランスが非常に上手に思えた。他の作品もそれぞれ長所や独自性があって非常に楽しく読ませていただいた。しかしここまで読切作品が多い号も珍しいと思う。来月号...もう明日(5/18)発売になるのだが、これには読切がないっぽい?可能であれば毎月2作品くらいコンスタントに掲載されると読切好きとしては嬉しいのだが。

 めんどくさいので特に校正とかはしていないのでご容赦を。
 それでは、長文失礼しました。









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